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5月10日 幼児期のポケモンゲームによる視覚認識の変化(Nature Human Behaviourオンライン掲載論文)

2019年5月10日
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昨日に続いて、テレビゲームを医学に利用する論文を紹介する。昨日の論文はアルツハイマー病の診断にテレビゲームを使った例だが、今日は発達期に自然には存在しない特殊なキャラクター、ポケモンに熱中することで、視覚認識がどう変化し、また他の能力に影響が及ぶのか調べたスタンフォード大学からの論文で、Nature Human Behaviour オンライン版に掲載された。タイトルは「Extensive childhood experience with Pokémon suggests eccentricity drives organization of visual cortex(児童期に頻回にポケモンゲームを経験すると視覚皮質の構造を特殊化する)」だ。

私たちが、顔、景色、文字と言ったみたものをすぐにカテゴリー化して理解できるのは、脳の下面に存在するVTCと呼ばれる場所に、カテゴリーを含むさまざまな情報と見た対象を相関させてしまっているからで、これらの認識力は発生期および発達期に刺激に応じて形成されていく。しかし、顔や景色といったカテゴリーに反応する場所は、個体間の差がないため、発達期にVTCでの新しい回路がどう形成されるのかについては研究が難しい。しかし、おそらくこの時期の特殊な回路形成が、将来の例えば画家としての能力に関わるのだろうと想像できる。この面白い問題に児童期のテレビゲームの経験が使える可能性にチャレンジしたのがこの研究で、5歳から8歳までニンテンドウのポケモンゲームでいつも遊んでいる成人を集めて、ポケモンの経験がない成人と比べている。ポケモンという特殊なキャラクターに反応する脳回路が形成されているのか、そしてそれが他の回路に影響しているのかを検討している。

論文を読むまでは考えたこともなかったが、確かに素晴らしい着想だと思う。私自身はポケモンの経験はないが、しかし小さなゲームボーイの中で繰り広げられる同じシーンに世界中の子供たちが熱中した。すなわち新しい一種のテレビゲームが、意図せず発達期の大規模実験をやり遂げたことになる。

研究では、さまざまなカテゴリーの写真とともに、ポケモンの写真を見せた時のVTC各領域の反応を機能的MRIで調べ、その反応を解析している。結果は期待通り、ポケモンで遊んだ場合は、大人になってもポケモン特異的な回路が形成され維持できている。しかし、これが形成されることで他のカテゴリーに対する反応が大きく変化することはない。ちょうど文字を覚える時期なので、文字のカテゴリーに対する反応変化も気になるが、ポケモンで遊んだ影響はない。

その上で、ポケモンを私たちはどう認識しているのか、どの場所にできるのか、またその場所でどのようにポケモン特定き回路が形成されてきたのか(著者らは漫画や動物に反応する回路をベースに新しく作ったと考えている)詳しく調べているが、詳細は省く。要するに、ポケモン特異的回路が形成されて残っていることは確かだ。

この論文の真価は、多くのテレビゲームを、さまざまな時期の脳への共通の刺激実験として使えることに気づいた点だろう。これまで、このようなゲームは発達に悪影響があるとして結論ありきで調べられてきた。しかし、この研究ではっきりと回路の場所や特性が明らかになることで、今後さまざまな能力や行動への影響を、脳の反応をベースに調べることができる。おそらくポケモンに限らず、多くのポピュラーなゲームはこの目的で使うことができるだろう。ぜひ、美大の学生さんでも調べてみたいテーマだと思う。

以前ポケモンGOが世界中で大ブームになった。毎朝散歩するのを日課にしているが、朝早くから大の大人がスマフォを持ってウロウロしているのを見て全く新しい時代がきたのだと感じたが、新しく形成されたポケモン回路が大人になっても残っていることを確認して納得した。

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