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5月22日 脳の老化にVCAM-1が関わっている(Nature Medicineオンライン掲載論文)

2019年5月22日
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2日にわたって高次判断の脳科学の話が続いたので、今日から2−3日は気楽な論文を紹介することにした。今日紹介するスタンフォード大学からの論文はは高齢者の血清中に存在する老化因子の研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Aged blood impairs hippocampal neural precursor activity and activates microglia via brain endothelial cell VCAM1 (高齢者の血液は脳血管内皮のVCAM-1を介して海馬の神経前駆細胞の活性を下げ、ミクログリアを活性化する)」だ。

研究では血管に絞って老化によって上昇する分子群をまず探索している。もともと、老化により慢性炎症が発生するため、VCAM-1などの発現が上昇すると予想できるが、案の定年齢が高まるにつれ脳血管のVCAM-1の発現が上昇し、これとともに血中に流れるVCAM-1も上昇してくることがわかる。すなわち、血清中のVCAM-1は老化の指標として使える。また、脳のVCAM-1陽性細胞は炎症関連遺伝子も強く発現していることがあきらかになった。実際、若いマウスでも炎症性サイトカインを投与すると血管のVCAM-1 は上昇する。

すなわち炎症性サイトカインが老化で上昇し、VCAM-1を誘導していると考えられるが、老化血清を若いマウスに投与すると、VCAM-1の上昇だけでなく、神経幹細胞の増殖活性が低下、さらにミクログリアを活性化型に変化させられる。また、高齢者の血清をマウスに注射しても同じ結果になる。

ここまでは血清中に炎症性サイトカインが老化により慢性的に上昇していると言う話で、特に驚くほどではないが、著者らはなんとホストの脳内のVCAM-1をノックアウトすると、老化血清の神経幹細胞の増殖抑制作用とミクログリア活性化作用が抑えられることを発見する。すなわち、老化血清中の炎症性サイトカインが最初の引き金とはいえ、神経系への影響は全て血管内皮VCAM-1誘導を介しているという驚くべき結果だ。

次に臨床への応用を考え、VCAM-1ノックアウトの代わりに、VCAM-1に対するモノクローナル抗体を投与して老化血清の作用を見ると、神経幹細胞やグリア細胞への作用を強く抑えることができる。

最後に老化マウスにVCAM-1抗体を投与して脳への影響を調べると、投与しない老化マウスと比べ、増殖神経細胞が増加し、さらに活性化ミクログリアの数が強く抑制される。そして驚くことに、コンテクスト記憶テスト、新しいものへのモティベーション、そして迷路テストのような脳機能の改善も見られる。

まとめると、老化とともに起こる慢性炎症は、脳血管のVCAM-1の発現を高めて、脳神経細胞機能を低下させると言う話で、VCAM-1に対する抗体で脳の機能抑制を抑えられる可能性は画期的だが、血管内皮でのVCAM-1発現上昇から、ミクログリア活性化、神経細胞増殖抑制までのメカニズムは明らかになっていない。このメカニズムが明らかになれば、また新しい脳老化の介入ポイントが見つかる可能性がある。期待したい

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