我が国ではドナー不足はまだまだ続いているが、多くの先進国では医療の一つの柱として重要な位置を占めている。また、移植にとって最も重要な問題、臓器拒絶反応についても、適合抗原のマッチング、免疫抑制剤など対策がすすみ、多くの臓器で安全な医療になっている。
と思っていたら、一定の割合で理由がわからない拒絶反応がおこってしまい、移植臓器が定着できない問題が今も立ちはだかっているようだ。今日紹介するコロンビア大学からの論文は、一般的に普及している組織適合性テスト以外に移植した腎臓を拒絶する抗原の一つを突き止めた論文で5月16日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Genomic Mismatch at LIMS1 Locus and Kidney Allograft Rejection (LIMS1遺伝子座のミスマッチが腎臓の拒絶に関わる)」だ。
現在の組織適合性テストは、ドナーとレシピエント別々に遺伝子多型を調べ、最もマッチングしている組み合わせを選ぶことで行われる。結局タイピングが最も進んだ主要組織適合性抗原のマッチングが中心になる。しかし、当然他の細胞抗原も移植に関わる可能性はあることは、癌のネオ抗原が拒絶に関わることを考えると当然のことだ。
この研究では、癌のネオ抗原と同じで、ドナーに存在して、レシピエントに存在しない分子がもしあれば(彼らは遺伝子衝突とよんでいる)と考え、このような組み合わせが高い頻度でおこる多型を選び、腎臓移植の失敗率と相関させて、最終的に細胞接着に関わるLIMS1遺伝子のイントロンに存在する一つの多型を特定することに成功している。
これまでに発見されてもいいように思えるが、実際にはドナーとレシピエントの組み合わせを調べる必要があるため、このように焦点を絞った探索で初めて発見されたと考えられる。
LIMS1はインテグリンのシグナルに関わるアダプター分子で腎臓に強く発現が見られる。今回特定された多型がGの場合、この分子の発現が低下することも確認され、さらに移植がうまくいかないケースでは、LIMS1に対する抗体が誘導されていることも明らかにしている。
結果は以上で、昨日と同じで少しでも移植の成功確率を高めようと、地道な努力が行われていることがよくわかる論文だった。とはいえ、分子の機能がアダプターである点や、まだこの多型を合わせてマッチングを行う前向きの研究ができていない点で、この発見の最終的評価は定まってはいないと思う。しかし、この検査はどこでも簡単にできると思うので、できるだけ早く用意してほしいと思う。