妊娠中や授乳中の母親の健康状態が、様々なチャンネルを通じて子供の健康状態、時には成人した後での健康状態に影響を持つことが知られ、研究が進んでいる。特に最近になって、栄養だけでなく、母親がエクササイズを続けることの重要性を示唆する研究まで現れてきている。
今日紹介するオハイオ州立大学からの論文はマウスモデルでの話だが、人間にも通用するなら大発見と言えるかもしれない研究で、新しい雑誌、Nature Metabolismに6月29日オンライン出版された。タイトルは「Exercise-induced 3′-sialyllactose in breast milk is a critical mediator to improve metabolic health and cardiac function in mouse offspring (運動によって母乳中に分泌される3-sialyllactoseはマウスの子供の代謝や新機能の健康を改善する重要な作用を持っている)」だ。
この研究では高脂肪食を与えて育てたマウスを、運動する環境と、そうでない環境で飼育し、その間妊娠と授乳を経験させる。この時生まれた子供は、運動をしている母親と、しない母親から生まれた子供に分けられるが、それぞれをさらに、授乳期の母親が運動している場合と、運動しない場合の4群に分けて、成長後の健康状態を見ている。すなわち母親が妊娠期、授乳期それぞれ、1群)運動あり、運動あり、2群)運動あり、運動なし、3群)運動なし、運動あり、4群)運動なし、運動なし、で育った子供の52週齢で、体重、脂肪量、グルコーストレランステスト、空腹時インシュリン分泌量、耐糖能などを調べている。
詳細は省くが、オスの子供については、授乳期の母親が運動していた場合に最もメタボリックシンドロームになりにくいことを示している。実際のデータを見るとその差は驚くほど大きい。一方おもしろいことに、メスの子供では、脂肪量が4群で、インシュリン分泌が2群で低いものの、その他ははっきりしたさがない。
おそらく性依存性のエピジェネティックな変化が起こっていると考えられるが、この研究ではメカニズムの追求はここまでで、代わりに運動により母乳中に分泌が上昇する分子について、人とマウスの母乳に多く含まれるオリゴ糖に注目して探索を進め、ヒトで1日の歩数と3-sialylactose(3SL)分泌量が相関することを発見する。
と言っても、実際の差は大きくなく、本当にこの分子だと結論していいのかと心配ではあるが、あとはマウスの実験に移って、授乳期の運動の効果が3SLを合成できないノックアウトマウスでは消失することをベースに、3SLこそが少なくともオスマウスが将来メタボになるかどうかを決めると結論している。
最後に、この実験条件に、3SLをサプリとして子供に毎日投与する実験を行い、オスの子供に3SLを投与したあと、高脂肪食で飼育を続けると(普通の食事で育てても差が出ない)、体脂肪、グルコーストレランステスト、空腹時インシュリン分泌など、高脂肪食による代謝障害を改善させることができる。ただなぜか耐糖能は改善しない。また。サプリの場合メスの子供のインシュリン分泌には影響が見られる。
実際の実験は複雑すぎて単純化するのは危険と知りつつ、あえて単純化すると、運動により母乳の3SL濃度は上がり、また3SLが分泌されない母親に育てられても、3SLをサプリで飲ませれば、高脂肪食による代謝障害が防がれるという結果だ。もし3SLを授乳期に摂取して、将来高脂肪食で暮らしてもメタボにならないとすると大発見ということになる。
授乳期の運動はいいとしても、では子供時代に3SLを摂取させていいのかどうか、重要な課題が残ったと思う。もともとオリゴ糖はプレバイオの材料として広く使われているが、シアリルラクトースの使用はほとんどないと思う。今後の展開に注目したい。