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7月20日 脳脊髄液に癌が浸潤する髄膜癌腫症(7月17日号 Science 掲載論文)

2020年7月20日
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癌が腹膜に浸潤して腹水が貯留して患者さんの体力を奪う状態は、癌のなかでも最も進んだステージで、治療が困難だ。ただ、これよりさらに恐ろしい状態が知られている。これが、髄膜に癌が転移し、脳脊髄液を介して癌が中枢神経系全体に広がる状態で、おそらく免疫系が起死回生の逆転劇を演じてくれない限り、治すことは難しい。

今日紹介するスローン・ケタリング癌センターからの論文は、この髄膜癌腫症の治療法開発を目指した研究で7月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「Cancer cells deploy lipocalin-2 to collect limiting iron in leptomeningeal metastasis (髄膜癌腫症ではガン細胞がleptocalin-2を使って結合した鉄を集めている)」だ。

この研究もsingle cell RNA sequencing (scRNAseq)の臨床医学への貢献を示す例で,髄膜癌腫症を発症した乳がん患者さんの脳脊髄液中のガン細胞をscRNAseqを用いて解析し、脳脊髄液(CSF)への浸潤が起こる条件を探っている。その結果、腹水と同じで、髄膜癌腫症でもCSF中にガン細胞をはるかに超える数の白血球やリンパ球の浸潤が見られる炎症が起こっていること、そして調べた全てのガン細胞で鉄の細胞内輸送に関わるlipocalin-2(LCN2)とその受容体が強く誘導されていることを発見する。

もともとCSFは栄養に乏しい低酸素環境で、がん細胞の増殖に適した環境ではない。このことを考慮すると、鉄を集めてくる分子が強く誘導されることは極めて理にかなっている。

そこでマウスモデルを使ってメカニズムを解析し、

  • CSF中でのがん細胞の増殖にはLCN2が必須で、発現を抑えると増殖が止まる。特に鉄イオンは低酸素条件での増殖に必須で、LCN2の機能が抑えられると、低酸素状態で細胞死に陥る。
  • LCN2は血液細胞から分泌される様々な炎症性サイトカインによって強く誘導される。

を明らかにしている。すなわち、鉄イオンを他の細胞との競合に勝って取り込んで、低酸素状態でも増殖できることが髄膜癌腫症の条件になる。とすると、鉄イオンをCSFから除去すると腫瘍の増殖を抑えられる可能性が出てくる。

最後に、鉄のキレート剤を脳室に投与してCSF内でのガンの増殖を調べると、期待通りガンの増殖を抑えることに成功している。

以上が結果で、臨床例の解析からスタートして、マウスモデルではあっても一つの治療法の可能性にたどり着いており、臨床まで進むことを期待したい。個人的印象だが、髄膜癌腫症の場合、すべてのタイプのT細胞が浸潤していることがscRNAseqから見て取れるので、うまくこれらを活性化して、ガンを除去する方法もぜひ開発してほしいと思う。

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