大学生時代私もその傾向があったが、慢性的に排便異常が持続するにも関わらず検査で異常が認められないと、過敏性腸症候群(IBS)と診断される。これに対し、明らかに炎症症状が見られる場合は炎症性腸疾患(IBD)と診断されるが、実際には両者を診断するのは簡単ではない。
今日紹介するカリフォルニア大学デービス校からの論文はこの境を超えるメカニズムを探った研究で8月12日にCell Host & Microbeに掲載予定だ。タイトルは「High-Fat Diet and Antibiotics Cooperatively Impair Mitochondrial Bioenergetics to Trigger Dysbiosis that Exacerbates Pre-inflammatory Bowel Disease(高脂肪食と抗生物質は強調してミトコンドリアのエネルギー代謝を変化させ、腸内細菌叢の変化と炎症性腸疾患前段階を悪化させる)」だ。
炎症か過敏かの境を診断するためのマーカーの一つが便中に排出されるcalprotectinだが、まだ過敏症の段階(IBS)と診断された患者さんの中でcalprotectinが高い患者さんを選んで食事の傾向、および抗生物質投与歴などを調べると、高脂肪食と最近抗生物質の投与を受けた経歴が強く相関ししていることが明らかになった。このグループをIBDの前段階(pre-IBD)と分類して腸内細菌叢を調べると、IBSの段階で既にビフィズス菌や乳酸菌が低下し、pre-IBDになるとclostridiaが低下、Enterobacteriaceaeが上昇するという、IBDの特徴を示すようになることがわかった。
人間ではこれ以上の解析は難しいと、今度はマウスに高脂肪食と抗生物質を投与する実験を行い、両者を投与した時ほぼ人間と同じcalprotectinの上昇を伴うpre-IBD状態が誘導できることを示している。
同じ病態が再現できると、pre-IBDに至るメカニズムを調べることが可能になり、
- 高脂肪食に抗生物質(この研究ではストレプトマイシン)が加わると、上皮のミトコンドリアのエネルギー代謝がoxgenationの方向に移行し、腸内での酸素濃度が高まる。
- この結果、好気的条件をこのむE coliが増殖し、腸内に炎症が誘導される。
- 抗生物質と高脂肪食は協調して腸上皮のPPARγの発現を低下させ、細胞代謝をoxigenation側へリプログラムするが、PPARγをamino salicylic酸で刺激すると、腸上皮の代謝は正常化し、炎症も抑えられる。
- おそらく抗生物質は腸内細菌叢を除去することで、PPARγシグナルに関わるブチル酸を低下させ、高脂肪食は直接ミトコンドリアのエネルギー生産に作用して、pre-IBDを誘導する。
以上が結果で、特に新しい発見はないが、IBS段階でIBDへ悪化させないための介入については重要な情報だと思う。