高齢者になると、骨髄移植は原則困難なので、急性骨髄性白血病(AML)の治療は難しい。最近になって、メチル化阻害剤のデシタビンやアザシチジンが使える様になり、病気の進行をある程度抑えることができる様になったが、治癒には程遠い。この様な薬剤による治療がうまくいかない背景には、白血病細胞集団の中に存在するガン幹細胞が薬剤では叩ききれないためと考えられ、幹細胞の増殖を抑える方法が研究されてきた。最近になって、AML幹細胞がCD70とCD28(リガンドと受容体)の両方を発現して刺激を維持することで増殖していることがわかっていた。そこで、CD70に対する抗体を使ってAMLを治療する試みが始まっている。
今日紹介するスイス・ベルン大学からの論文はCD70に対する抗体とメチル化阻害剤(人間の場合アザシチジン)を組み合わせることで、半数の患者さんで白血病を抑えることが可能であることを示した重要な研究で6月29日号Nature Medicineに掲載された。タイトルは「Targeting CD70 with cusatuzumab eliminates acute myeloid leukemia stem cells in patients treated with hypomethylating agents(CD70に対する抗体Cusatuzumabは、メチル化阻害剤で治療を受けている患者さんの急性白血病の幹細胞を除去できる)」だ。
かなり詳細な実験が行われているので、個々の実験についての解説は省いて、研究の流れと、結果の要約だけを紹介する。
この研究はメチル化阻害剤で白血病細胞を処理すると、CD70が上昇するという発見から研究を進めている。これはCD70遺伝子の転写調節領域のメチル化が外れることでおこり、白血病の幹細胞のCD70抗体による治療を容易にすることがわかる。そしてこの可能性を、白血病細胞を移植したマウスの治療実験で確かめ、メチル化阻害剤とCD70抗体の両方を投与した群では、ほぼ完全に白血病細胞を除去できることを示している。
次に、白血病抑制のメカニズムについて検討し、メチル化阻害剤がCD70の幹細胞での発現を高めると同時に、分化した白血病細胞の除去に貢献し、一方でCD70抗体は、CD70/CD28シグナルを抑えると同時に、NK細胞など抗体依存性細胞障害機構を使って、幹細胞を除去するという2段構えになっていることをモデル実験系で示している。
この研究が重要なのは、上記の前臨床研究をもとに、平均年齢75歳の高齢者のAMLを対象にPhaseI/IIの治験が含まれている点で、最初異なる用量のCD70抗体を投与した後で、アザシチジンとCD70抗体を組み合わせる1ヶ月ごとの治療プロトコルを12人に投与、経過を観察している。
結果は上々で、全てのCD70に対する抗体量で治療効果が見られ、そのうち10人ではcomplete remissionが見られている。このうち1例は骨髄移植を行えたので中止、また4例は再発により治験を中止している。しかし残りの6例は治療を継続しており、最初に治験に参加した2人は2年近くcomplete remissionのまま経過している。
高齢者のAML治療のこれまでの状況から考えると、かなり有望な方法に思える。今後第3相が行われると思うが、期待している。