最近私の周りでも乳ガンにかかったという人が増えたが、手術しか手がなかった時と比べると、ネオアジュバント、手術、アジュバントを組み入れた治療へと大きく変化しており、年寄りにはよりはっきりと医学の進歩を感じさせてくれる。
ただ、まだまだ改良の余地があるようで、今日紹介するミラノ大学からの論文は、これに一種の断食、あるいは断食と同じ状態を再現できる食事を合わせると、ホルモン受容体陽性/HER2陽性乳がんのコントロールを高めることができるという研究だ。タイトルは「Fasting-mimicking diet and hormone therapy induce breast cancer regression (断食と同じ効果を持つ食事とホルモン治療により乳ガンの縮小を誘導できる)」だ。
この研究で用いた断食とは1週間に2日間水以外は摂取しない方法で、研究の真の目的は、Xentigenと名付けられた低炭水化物を中心とした食事療法が断食の代わりになることを示すことだ。
研究ではまず、Xentigen食により、断食と同じ効果が得られ、インシュリン、IGF1そしてレプチンの血中濃度が低下すること。それに伴い、エストロジェン阻害剤による乳ガン治療の効果がさらに高まることを動物実験で示している。
また腫瘍増殖を抑制するだけでなく、「嘘か?」と思えるほどの多様な効果を発揮する。まず、タモキシフェン治療による子宮内膜の増殖や内臓脂肪の増加を防ぎ、アディポネクチンの分泌を低下させ増殖をさらに抑制する。また、ガンの増殖を抑制する因子の一つEGR1を強く誘導することでもガンの増殖を抑える。これらの結果、薬剤耐性ガンの発生を抑え、さらには最近期待のCDK4/6阻害剤の効果を高める。
生化学の詳細は省くが、要するに断食状態を導入してくれる食事療法が乳ガン抑制に予想以上の大きな効果を持つことを示している。とは言っても、動物モデルだけでは論文は採択されない。この研究では36人の患者さんでXentigenベースの食事療法の効果を調べた治験で効果が見られたケースがあることを示している。また、期待通り食事療法でIGF1やアディポネクチンを低下させることも示しており、腫瘍増殖を助ける因子の分泌を抑えることは示している。しかし、これらは全て1/2相の段階で、実際には臨床効果についての最終結果は示されていない。
その点でフラストレーションは残るが、一部の例と、腫瘍増殖因子の抑制は達成できており、いい結果が期待され論文が採択されたのだと思う。早く結果を示して、乳ガンの治療に組み入れてほしいと期待している。