色々論文を読んでいると、good ideaと思わず微笑んでしまう論文に出会うことができる。このような論文は基本的に新しい発見とは無関係で、すでによく知られているメカニズムを上手に利用する仕方を提案するものが多い。
今日紹介するジョージア工科大学からの論文はまさにこのような例で、1型糖尿病治療に行われる膵島移植の拒絶を防ぐ面白い方法についての前臨床研究で8月28日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Immunotherapy via PD-L1–presenting biomaterials leads to long-term islet graft survival (PD-L1を発現したバイオマテリアルによる免疫治療は膵島移植の長期生着を可能にする)」だ。
PD-1に対する抗体を用いたガンのチェックポイント治療は、PD-1シグナルによる免疫反応抑制を抑えるもので、ガン抗原に対する免疫反応の枯渇を防いで治療を行う。これを逆から見ると、PD-1を活性化すれば免疫反応を抑えることができることを意味し、移植臓器に対する拒絶反応を抑える一つの方法になりうる。
PD-1を活性化し、免疫を抑える分子の一つがPD-L1で、この分子を発現しているガンは、免疫抑制効果が高く、予後が悪い。これを抑えるのが、本庶先生が開発したPD-1に対する抗体だが、逆にPD-1を活性化して免疫を抑えたい場合は、PD-L1を抗原とともに提示することが必要になる。
この論文の著者らは、PD-L1を結合させたポリエチレングリコールジェルを作成し、これと移植する膵島を混合して移植することで、移植片に対する拒絶反応を抑制できるのではないかと着想した。大きな臓器では無く、β細胞の小さな塊を移植する膵島移植を考えると、たしかにgood ideaだ。これまで細胞側に遺伝子を導入するなど様々な可能性が考えられてきたが、新しい工学的発想を感じる。
あとはうまくいくかどうかだが、膵島とPD-L1ジェルが存在すると、試験官内で抑制性のTregが誘導され、また膵島に対する直接の細胞性障害活性を抑えることもできる。
そして何より、組織適合性がない膵島を脂肪組織に移植した時、このジェルがあると、移植後1ヶ月ぐらいまで、移植した半数の膵島の生着が維持される。さらに、糖尿病を誘導したマウスに移植した場合、7割ぐらいの個体で、糖尿病の発症を抑制できる。
あとは、本当に膵島に対する免疫寛容が成立したのかなど、最新の方法で確かめているが、詳細は省く。前臨床研究としてはコンセプトが確認されたと結論していいだろう。
あとはどの段階で人に応用できるかだが、現在のような門脈に膵島を注射して肝臓に生着させる場合にジェルが使えるかどうかの検証、あるいは門脈をやめて、膵島を脂肪組織に移植する方法が可能かなど、検討が必要になるだろう。
一見小さなアイデアに見えるが、個人的には発展性があるgood ideaだと感じている。