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9月8日 進行ガンの標的治療の効果をscRNAseqで解析する(9月3日号 Cell 掲載論文)

2020年9月8日

ガンのドライバー変異が特定できる様になってから、その活性を選択的に抑制してガンの増殖を抑える標的治療に大きな期待が集まった。実際、全身に転移していたガンが見事に消失する画像を見ると、心底驚く。しかし観察を続けてわかったことは、ほとんどの患者さんで標的治療に抵抗するガン細胞が出現し、再発してしまうことだった。従って、いくつかの標的薬を組み合わせて、耐性細胞が出ない様にすしか方法はないが、このためには標的薬治療でガン組織に何が起こっているのか知る必要がある。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、ガンのドライバー変異に対する標的治療を受けた患者さんについて、治療前、ガン縮小時、そして再発時にバイオプシーを行い、組織から得られた細胞についてsingle cell RNA sequencingを繰り返し、ガン細胞だけでなく周りの組織の治療による変化を解析した研究で9月3日号のCellに掲載された。タイトルは「Therapy-Induced Evolution of Human Lung Cancer Revealed by Single-Cell RNA Sequencing (Single Cell RNA sequencingからわかる人間の肺ガンの治療による進化過程)」だ。

地道だが重要な研究だ。バイオプシーの方法について詳しく書いていないので想像するしか無いが、もし針を経皮的に刺す方法だとすると、腫瘍が縮小した時点の組織に含まれるガン細胞は少ないはずで、解析は大変だと思う。それでも、scRNA seqでガン細胞を特定できるということは、この方法の臨床的重要性を物語っている。

実際、ガン細胞が解析できた44例の患者さんのうち、20例でscRNA seqデータからガンのドライバーを特定でき、さらに11例ではそれ以外のガンの突然変異も特定することができている。個人差が極めて大きく、標準治療とはいかないと思うが、scRNA seqの結果から、先回りして標的薬を組み合わせた治療も可能になると期待できる。

多くのデータが示されおり、全部紹介するのは難しいので面白いと思った点だけを箇条書きにする。

  • 治療により縮小したガン細胞では、治療前と比べて肺胞細胞特異的遺伝子の発現が見られる。面白いことに、肺胞型の性質を示すガンを調べると、確かに予後が良い。おそらく肺胞型遺伝子発現は、増殖が抑えられることで誘導される様だ。
  • ガンが縮小した組織では、Wntシグナル経路が活性化されている。おそらく、この結果、ドライバーを抑制しても増殖する細胞が維持され、そこで体制が獲得される可能性がある。とすると、Wnt阻害剤と標的薬を組み合わせる治療は期待できる。
  • 治療前、再発時のガンを縮小時のガンと比べると、トリプトファン代謝のキヌレイン経路が活性化されている。この経路は免疫抑制に関わることがわかっているので、例えばIDO1を阻害することで経路の活性を下げることで、標的薬の効果を高める可能性がある。
  • 再発過程を調べると、症例によってまちまちだが、plasminogen activatorなど、ガンの浸潤に関わる分子が上昇している。面白いのは、gap-junction分子が上昇しいる点で、ガンが集団的に情報交換して治療に抵抗しているのかも知らない。
  • 異なる経過時点でバイオプシーを行なったケースでは、再発ガンで扁平上皮型の転写がみられており、ガンの形質転換が悪性化とともに進んでいることを示している。
  • 今回の患者さんでは免疫チェックポイント治療は行われていないが、それでもガンの治療により、マクロファージが減り、T細胞浸潤が増えることが明らかになった。すなわち、ガン細胞が殺されることが、免疫誘導を促している可能性が高い。そして、ガンが再発するとこの状態は元に戻る。また、再発によりIDO1などが上昇すると、予想通り抑制性T細胞が浸潤する。

以上が面白いと思った結果だが、ガン治療と免疫反応の関係などは、今後のチェックポイント治療の利用にとっても重要なヒントになる様に感じる。この様なデータから一つでも新しい併用治療が確立することを願う。

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