母親の腸内細菌叢が胎児の発達、特に脳発達に関わるのではという可能性はこれまで何度も指摘されてきたが、ほとんどが神経機能や行動レベルの解析を用いた研究で、胎児発達期の影響か、生後の脳発達過程への影響かについては明確ではなかった。
今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文は胎児期の脳発達に絞って母親の腸内細菌層の影響を調べた研究で9月23日号のNatureにオンライン出版された。タイトルは「The maternal microbiome modulates fetal neurodevelopment in mice(母親の腸内細菌叢がマウス胎児の脳発達に影響する)」だ。
この研究ではまず、無菌マウスや抗生物質で腸内細菌層を除去したマウスを妊娠させ、14.5日目の胎児脳の遺伝子発現を正常胎児と比べることから始めている。この結果、333遺伝子の発現変化がリストされるが、神経の伸長や反発に関わることが明確なNetrin-G1aに絞ってその後の実験を行なっている。ただ、333種類の遺伝子発現が何らかの変化を示したということは、腸内細菌叢の影響力の強さを物語っており、今後さらに研究が必要だろう。
さて、Netrinに戻ろう。これを指標に胎児脳を調べると、視床と皮質をつなぐNetrin陽性神経細胞が減少し、これに伴い視床のサイズも減少していることが明らかになった。
次に胎児視床組織培養で見られる軸索伸長反応を調べ、線条体や下垂体組織と培養した時に軸索伸長反応が低下することを明らかにしている。その結果、生まれてきた子供では、四肢の感覚が低下していることも確認している。
あとは、こうして見つけた指標を、細菌を母親に移植することで正常化できることを確認した上で、正常化能力のある最近の特定を試み、胞子形成を行うClostridia(Sp)を最も有効な細菌種として特定している。そして、この細菌種を導入した母体の血液や、胎児脳の代謝物を比較し、Spを移植したときに血中で上昇が見られる細菌由来の代謝物、Imidazole propionateとtrimethylamine N-oxideなどを含むカクテルを加えることで、解剖学的異常、軸索伸長異常、さらには感覚神経異常をすべて正常化できることを示している。
人間で腸内細菌叢を完全に除去することはほとんどないので、どこまで参考になるか分からないが、細菌叢がもう一つの器官として様々な分子を生産し、これが胎児発達に影響する可能性はよく理解できたと思う。その上で、では人間でどう調べていけばいいのか、すぐ答えは出てこないのでなんとなくフラストレーションが残る論文だ。