慢性リンパ性白血病(CLL)の最後の治療法としてB細胞抗原を標的にするCAR-T治療が我が国でも行われるようになっているが、CLL治療の最初の切り札と言えるアロの骨髄移植は、ガン治療で低下した造血機能を補うだけでなく、組織適合性のないドナーのリンパ球に白血病細胞を壊滅させるという期待も込めて行われている。
このgraft vs host 反応(GvH)がCLLに重要な役割を演じていることがわかってくると、骨髄移植をGvHによるCLL細胞除去を主目的に使おうとする方法が考案された。Reduced intensity conditioning (RIC)と呼ばれる方法で、普通の骨髄移植と比べると骨髄障害の少ないプロトコルで全処置を行い、アロ骨髄を投与する。患者さんの体への負担が少ないことから、年齢が高い人でも可能だが、問題はどうしても再発率が高いことだ。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、RIC後の骨髄移植で治療され、再発を経験した患者さんの、治療前と再発後の白血病細胞を徹底的に調べ、再発のメカニズムを探ろうとした研究で9月16日のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Distinct evolutionary paths in chronic lymphocytic leukemia during resistance to the graft-versus-leukemia effect(慢性リンパ性白血病細胞がGvH反応への抵抗性を獲得するまでの経路は多様だ)」。
この研究では10例の患者さんで、治療前と再発後の白血病細胞を分離し、ゲノム解析、遺伝子発言解析、single cell RNA seq、そしてメチローム解析を行なって、GvH反応を逃れるプロセスを探っている。詳細を省いて結果を箇条書きにまとめる。
- エクソーム解析:早期に再発した患者さんでは突然変異の蓄積はほとんど見られない。一方、再発までに時間がかかると、遺伝子レベルの変異が蓄積している。おそらく、早期再発例ではGvHの効果が得られなかったが、後期再発例ではGvHが効果を表し、白血病細胞もそれから逃れるための進化を遂げたことを示唆している。事実、後期再発例では、ネオ抗原として働く変異が選択を逃れる中で減少していることも示している。
- 白血病細胞の遺伝子発現でも、早期再発例では平均66遺伝子で発現の違いが見られたのに対し、後期再発例では1000近くの遺伝子発現で違いが見られている。すなわち、GvHから逃れるため進化していることがわかる。面白いことに、発現の違いが見られる遺伝子は様々な幹細胞維持に関わる遺伝子や、抗原受容体シグナルに関わる遺伝子が多く見られる。
- 実際に白血病細胞が選択されてきたことはsingle cell RNAseqによる細胞レベルの発現解析で明確になる。早期再発例では治療前と細胞集団に大きな差が見られないが、後期再発例では各患者さんごとに異なる細胞集団が選択されている。これらの集団は、細胞死や細胞増殖シグナルに関わる遺伝子、さらに癌抑制遺伝子などの発現の差が関与している。
- これまで考えられてきた、HLA抗原発現の抑制は白血病細胞の選択にほとんど関わらない。
- 遺伝子発現の差を誘導するメカニズムとしてDNAメチル化は重要で、後期再発例ではメチル化の程度が強く更新している。
以上が結果だが、短期再発例ではGvH反応自体が働かなかったこと、後期再発例ではGvHの効果が見られたが、遺伝子変異とエピジェネティックな変化が統合され、白血病細胞が耐性を獲得する。そして、この経路は症例ごとに異なり、HLAのような決まった原因で起こるわけではないことが示された。
とすると今のところsingle cell RNA seqが臨床で行える最も有効な診断方法になるが、普及するにはまだまだ時間がかかるだろう。