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9月5日 コロナウイルス最強の武器を分析する(9月4日号 Science 掲載論文)

2020年9月5日

コロナウイルスにコードされている分子を知れば知るほど、ウイルス進化の巧妙さに惚れ惚れしてしまう。特にホストの自然免疫を防ぐために発達させた、二重三重のメカニズムは、コロナウイルスの様な複雑なウイルスの複製やウイルス粒子のアッセンブリーがいかにホストのアタックを受けやすいかを物語っている。逆にいうと、この防御を一つでも破ればコロナウイルスの増殖を抑えることができる。

今日紹介するミュンヘン大学からの論文はコロナウイルスの防御機構の中でも最大の武器と言えるNsp1の機能と構造の関係を明らかにした研究で9月5日号のScienceに掲載された。タイトルは「Structural basis for translational shutdown and immune evasion by the Nsp1 protein of SARS-CoV-2 (新型コロナウイルスのNsp1タンパク質による翻訳の抑制と免疫回避の構造的基礎)」だ。

タイトルにあるNsp1がコロナウイルスがホスト細胞のメカニズムをコントロールするために開発した最大の武器で、新型コロナウイルスに限らず、これまでのSARSなどの研究で、ホストのリボゾームに結合してホストの翻訳をほぼ完全に停止し、さらにエクソヌクレアーゼ活性でホストmRNAの分解のスイッチを入れる活性を持っている。一方、ウイルスRNAは特殊な5‘配列で、この阻害を受けないため、感染した細胞の翻訳システムを全て自分のために使うことができる。その結果、当然ホストの自然免疫システムは機能せず、ウイルスは安全に増殖することになる。

この研究ではNsp1タンパク質のC末端に突然変異を導入する実験で、Nsp1がこの部位でリボゾームに取り付くことを確認した後、クライオ電顕を用いて構造解析を行っている。結果をまとめると、

  • Nsp1は翻訳が始まる前のリボゾームにC末端で結合するが、2種類の結合状態が形成される。
  • 一つはCCDC124と呼ばれるタンパク質が結合した状態で、結合している他のタンパク質の性質から、リサイクルされる過程のリボゾームにNsp1は結合する。
  • もう一つの状態はCCDC12のかわりにLYARという分子が結合した状態で、EF1AとtRNA複合体も結合した、これまで知られていなかった状態で、その機能ははっきりしない。
  • いずれの状態も、Nsp1C末端が結合した結果、ホストのmRNAが入り込む隙間が完全に埋められる。
  • その結果、Nsp1遺伝子を導入すると、用量依存的にインターフェロンβの転写が抑制されるが、C末に変異を入れたNspではこの作用がない。

以上、構造の苦手な私にもわかりやすくデータが示され、コロナウイルス最強の武器Nsp1のことがよくわかった。

残念ながらこれだけで、なぜウイルスRNAは翻訳されるのかは解明されていないと思う。しかし、コロナウイルスのNspタンパク質が最初一本のペプチドとして作られる必要性と関わる様に感じた。

この研究で説かれた構造を見ると、Nsp1の機能を阻害することはそう簡単ではない様に感じる。ただ、これほど複雑なシステムを持っているコロナウイルスなら、遺伝子ノックダウンのためのRNA薬も結構使えるのではと期待している。

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