細菌やウイルスの感染に対する防御の第一線では、外来DNAを感知してインターフェロンなど自然免疫系が活性化されるが、この中心を担うのがGAS-STINGシステムだ。外来DNAが侵入してくるとGASがDNAをcyclic nucleotideが2個結合したcyclic di-nucleotide(CDN)を合成する。このCDNが小胞体に結合しているSTINGを活性化し、TBK1/IRF3下流シグナル分子を介して、インターフェロンなど自然免疫系が活性化される極めて巧妙なシステムだ。
今日紹介するハーバード大学からの論文はSTING分子の起源は一部の細菌に見られる、CDNを感知するという全く同じ機能をもった分子であることを示した論文で9月2日号のNatureに掲載された。タイトルは「STING cyclic dinucleotide sensing originated in bacteria (STINGのcyclic di nucleotide感知機能はバクテリアに由来する)」だ。
この研究はSTINGに一定の相同性を持つ分子が一部の原核生物にも存在することの発見から始まっている。しかも細菌のSTINGはcyclic nucleotideにより活性化される免疫システム分子が集まっているオペロン上に存在していることを発見した。しかも細菌のSTINGは自然免疫の活性化に関わるToll like receptorと相同なドメインが結合したセンサーと、エフェクターが合体した構造を持っている。
この研究では、再構成した細菌STING分子を、構造学的、生化学的に詳しく調べ、
- 人間のSTINGと異なり、CDNの一つcyclic GMP-AMP 特異的に結合すること。
- STINGをcGAMPを合成している大腸菌に導入すると増殖を抑制すること
- 活性化されるとtoll like receptor によりNADをnicotinamideに分解すること、
- 活性化されると鎖のように連結して機能を発揮すること、
- 牡蠣のSTINGでもtoll like receptor様エフェクターと結合していること、
などを明らかにしている。
以上の結果から、もともとSTINGは細菌が外来のウイルスを防御する仕組みとして獲得したDNA センサーで、toll like receptorドメインによるエフェクター機能も備えていた。おそらく、水平遺伝子伝搬によりそのままメタゾアに移行して、独自の進化をはじめ、toll like receptorドメインの代わりに小胞体膜上に発現するドメインを獲得するとともに、様々なCDNを認識する様に変化した進化のシナリオを提案している。
一般の人にはわかりにくいと思うが、自然免疫としてのGAS/STINGについてある程度知識があれば、重要な発見であることがわかる。単純にアミノ酸配列を比較するだけで無く、構造から機能にいたるまで、総合的な解析が行われており、新しいことを学んだという実感が得られる論文だった。