パーキンソン病(PD)の多くは特定の遺伝子変異を見つけることが難しいが、一部のケースで明確な遺伝子変異に起因することがわかっている。中でもよく研究されているのがPINK, PARKINと呼ばれる分子の変異で、変異によりミトコンドリア変性が進んでドーパミン神経が失われると考えられている(http://aasj.jp/news/watch/6449)。
さて、ゲノム解析が診断に利用されるようになり陥りやすい過ちは、遺伝子変異が見つかるとそれで納得してしまうことだ。しかし特定の変異が実際にはどう病気に関わるかは単純ではない。今日紹介するルクセンブルグ大学からの論文はPARKINの一つPARK7のミスセンス変異によりPDが発症するメカニズムを詳しく調べた研究で、突然変異が見つかっても、メカニズムを理解するにはまだ長い道のりがあることがよくわかる研究で、9月9日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A patient-based model of RNA mis-splicing uncovers treatment targets in Parkinson’s disease (患者さんのRNAミススプライシングのモデルの解析からパーキンソン病の新しい治療が発見できる)」だ。
この研究はPARKINファミリーの一つPARK7に存在する64番目のアミノ酸が変化する突然変異がPDを発症するメカニズムを探っている。患者さんの細胞の解析から、この変異の結果、PARK7タンパク質の発現が強く抑制されることがわかり、この変異によりタンパク質が不安定になり、分解されてしまうのだろうと説明されていた。
この研究ではこのアミノ酸変異の元となる遺伝子側(192番目の塩基がGからCに変わる)の変異によって、RNAスプライシングが起こらなくなり、エクソン3が欠損したタンパク質ができることを発見する。とはいえ、それでもスプライス後のRNAからタンパク質は理論上合成されるはずなのに、実際にはPARK7タンパク質自体が存在しない。詳細は省くが、これが3番目のエクソンが欠損することでmRNAの3次構造が変化し、この結果タンパク質の翻訳自体が抑制されることを発見する。この翻訳の抑制は、人間の神経細胞のみならず大腸菌でもみられることから、mRNA自体の問題であることが確認された。
とすると、スプライシングを正常化して、エクソンが欠損しないようにすれば、ミスセンス変異があってもPARK7の機能が維持されるか調べる目的で、small nuclear RNAを導入してスプライシングを正常化する実験を行い、このことを確認する。
スプライシングを正常化させる薬剤は最近開発が進んでおり、kinetinなどは治験に入っている。そこで、インシリコの計算による薬剤探索で発見したphenylbutyric acidとRECTASと呼ばれるkinetin類似化合物を併用して患者さん由来の細胞を処理すると、なんとタンパク質の生産が18%近くまで改善することができ、ドーパミン神経の消失を試験管内ではあるが防げることを示している。
これだけだと特殊な変異に絞った治療法の開発になるが、この研究では明確な遺伝子変異が存在しない孤発性のPD でも、スプライシングミスが起こる変異を持っている確率が高いことを示し、比較的多くのPDを治療するためにスプライシング異常を正常化させる薬剤が使える可能性を示唆している。
診断側から見れば病気と変異の対応で決めざるを得ないが、治療を真剣に考えるならメカニズムを丹念に特定することの重要性がよくわかる論文だった。