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9月20日 2型糖尿病のエピジェネティック診断(9月16日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年9月20日
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ゲノムの変異によるガンも含めてあらゆる病気はエピジェネティックな違いが関わると言っていいが、2型糖尿病の場合、オランダの飢餓研究という有名なコホート研究がエピジェネティックな要因の存在を示すものとして例に挙げられることが多い。オランダ飢餓研究は、戦争が終わる前の冬、ドイツ軍の経済封鎖の結果市民が飢餓にさらされ、その時に生まれた子供たちを長期的に追跡したコホートだ。母体の飢餓により、生まれた子供に様々な変化が起こることが明らかになったが、中でも子供たちが60歳を超えた頃から、インシュリン分泌が低下した2型糖尿病の頻度が高まることが報告され、発生時に被ったエピジェネティックな変化により何十年も経て現れる体質が形成されるのかと驚いた。

今日紹介するスウェーデン・ルンド大学からの論文は糖尿病になりやすいエピジェネティックな変化を末梢血で診断できるか調べた論文で9月16日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Epigenetic markers associated with metformin response and intolerance in drug-naïve patients with type 2 diabetes (初めて治療を受ける2型糖尿病患者さんのメトフォルミンへの反応性を決めるエピジェネティックな指標)」だ。

この研究の目的は、糖尿病に至るエピジェネティックな変化を血液細胞のメチル化パターンから診断するエピジェネティックマーカーの開発だ。しかし、糖尿病はインシュリン分泌から感受性まで、多くの臓器が関わる複雑な病態なので、糖尿病全体を対象にしてもうまくいくとは思えない。そこでこの研究では、糖尿病治療ではまず最初に用いられるメトフォルミンが効いた人と、効かなかった人を選んで、この差に関わるDNAメチル化マーカーを探索している。

もう一つの問題は、糖尿病の病態には直接関わらない末梢血のメチル化パターンから、多臓器が関わるメトフォルミン感受性が診断できるかだが、先に述べたオランダ飢餓研究でも、病気と対応する末梢血のメチル化パターンの変化が報告されているので、やってみる価値はある。

結果だがメトフォルミン反応性、非反応性の2群のDNAメチル化状態の中から、メトフォルミン反応性の人、非反応性の人特異的なメチル化パターンを見つけることに成功している。

そして、これらの指標を合わせて計算することで、末梢血のDNAメチル化パターンからメトフォルミンに対する反応を、9割以上の確率で予測できることを明らかにしている。

さらに、血液のメチル化パターンが、糖尿病に関わる脂肪組織のメチル化パターンと対応することを確認し、この変化が体全体(例えば栄養)で起こった刺激への反応として起こっていることを確認し、血液が診断に使えることを明らかにした

最後に、この中の2種類の遺伝子を選んで、培養肝臓細胞のメトフォルミンに対する反応とこれらの遺伝子発現とに関わりがあるか調べ、メトフォルミンの作用がこれらの遺伝子の発現変化により直接変化することも確認している。

以上、末梢血に起こったエピジェネティック変化でも、糖尿病の病態を診断するために用いられることを明確に示した力作だと思う。

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