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9月30日 格差問題に声を上げるきっかけ(9月23日 Nature オンライン掲載論文)

2020年9月30日
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南アフリカを旅行したとき、否応なしに考えさされたのが、なぜ民主主義が経済格差を是正できないかという問題だった。マンデラさんが大統領になり、アパルトヘイトを含む政治的地位に関する格差は無くなった。事実、現在まで大多数の黒人が大統領や議会の多数を占めている。しかし、南アフリカの富の格差は凄まじく、1%の金持ちが70%の富を独り占めしいる。民主主義が機能している場合、例えば所得に対する税と、相続税を高めて、富の分配を図る政策が考えられるが、うまく機能していないことは旅行すればすぐわかる。なぜ大多数を占める貧困層が政策を変えられないのか、我が国戦後民主主義が財閥解体や農地改革とセットになって進んだことを比較しながら、旅行中考えつづけていた。

今日紹介するカリフォルニア大学マーセッド校からの論文はこの問題の一因を知るための一種の実験的研究で9月23日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Local exposure to inequality raises support of people of low wealth for taxing the wealthy(局所的に格差を目にすることで富裕層への税により貧困層を助ける政策への支持が上がる)」だ。

おそらく著者らには最初から答えがあった様に思う。事実この様な政治に関する実験研究は仮説に基づき行われることが多い。この研究では、貧困層は実際には格差に気付いていないため、格差是正政策支持につながらないという仮説に基づいて研究を計画している。

この仮説の検証のために行った実験が面白い。ソエト(ヨハネスブルグ近郊にある南アフリカ最大の黒人居住地区)でも貧困層の多い地域で通行人を呼び止め、「格差是正のための富裕層への税を強化しよう」という嘆願書、あるいは「原発から自然エネルギーに変えよう」という嘆願書をみせてサインを求める。この様なサインの呼びかけは我が国でもよく見かけるのと同じだ。ただ、サインを求める場所に、無作為的に格差の象徴としての高級車(BMW)を駐車しておくという設定を作っている。貧困地域にはまずBMWの様な車が駐車することはないので、それを目にすることで、格差をより強く認識するのではという設定だ。

まず、格差の象徴BMWがあると、サインをする人が減る。おそらく、格差が認識されると、嘆願書など意味がないと思うのだろう。この条件で、しかしBMWが駐車している横で署名を求めると、富裕層への税をかけて格差をなくすという政策に署名する人が11%増える。一方、原発を自然エネルギーへという嘆願書への署名はBMWによっては影響されない。

BMWが駐車しているだけでこれほどの差が出るのかと驚く。この結果をさらに確かめるため、同じ嘆願書への署名を、貧困地区(ジニ係数から決めている)から異なる距離の3地区で行い、日常に貧困が感じられる場所に近いほど富裕層への課税への支持が得られることを示している。

南アフリカの様に富裕層と貧困層が完全に分離して暮らす場合、貧困者ですら格差を感じる機会が少ないため、経済格差是正のための民主主義が機能しないという結論になる。

一見簡単な結論に見えるが、よく考えていくと示唆に富む内容の深い研究だと思う。

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