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9月19日 バイキングとスカンジナビア(9月16日 Nature オンライン掲載論文)

2020年9月19日
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ヨーロッパ文化といえばもちろんキリスト教と切り離すことはできないが、一方で土着の文化も深く根付いているのがわかる。一つの理由は、キリスト教化前のギリシャ文化の影響の強さで、小説から音楽まで、ヨーロッパ文化を味わうにはギリシャ神話や文学の知識が必要になる。そしてもう一つ、いわゆる北欧神話も、キリスト教に改心した後も文化の底流を形成し続けた。ワーグナーのニーベルングの指輪はその典型だが、この文化は北欧のシンボル、バイキングのイメージと重なる。おそらくスカンジナビア各国はバイキングを誇りにしていると思うが、バイキング自体不思議な存在だ。決してバイキングと呼ばれた人たちが同盟国を形成していたわけではなく、おそらくバイキングにより襲われたりした中世ヨーロッパの人たちが、海から災いをもたらす共通の集団として総称していたのでは無いだろうか。(以上は個人的想像で根拠はない)。いずれにせよ、バイキングはどんな人たちなのか?

今日紹介するコペンハーゲン大学を中心とする研究グループからの論文は、この問題をバイキング時代(AD750-1050年)を中心にバイキングに関わる遺跡から出土した骨のDNAを解析して明らかにしようとした研究で9月16日号Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Population genomics of the Viking world (バイキング世界の集団ゲノミックス)」だ。

この研究ではなんと442人のバイキングと考えられる人たちの遺骨を集め、全ゲノム解析を行い、バイキングと総称される人たちと、当時のヨーロッパ人との関係、さらには現代のスカンジナビア人とバイキングの関係を調べている。元々バイキングの歴史をほとんど知らないため、完全に理解できているか心許ないが、大きなストーリーをまとめると次の様になる。

  • ほぼ全てのバイキングゲノムは青銅器時代のヨーロッパ人とオーバーラップする。
  • ただ、他の文化との交流の結果少しづつ違いが生まれ、大きくデンマーク型、スウェーデン型、ノルウェー型に別れる。これは、海を渡ってどの地区と交流があったかによる。またバイキング時代、デンマーク型にはスウェーデンやノルウェーバイキングのゲノムはほとんど存在せず、交流は北へと進んで行ったことがわかる。事実デンマーク型はデンマークを超えて広く分布する拡大型。ただ、この違いは時代によって変わっていく。
  • ゲノムで区別できるそれぞれのグループは異なる方向へ進出し、例えばノルウェーグループはアイスランドやグリーンランド、スウェーデングループは東方、そしてデンマークは英国方面へ進出している。ただ、バイキングが攻撃したと思われる地域では、複数のグループのゲノムが残っていることから、異なるグループのバイキングが協力して進出することもあった。
  • 親戚関係にあるバイキングのゲノムは、同じ場所だけでなく、何百キロも離れた場所から出土しており、バイキング時代の進出範囲の広さを示す。
  • 現代のスカンジナビアゲノムは、バイキング時代をおおむね継承しているが、スウェーデンだけは15−30%のゲノム領域に減少しており、デンマーク型のゲノムを中心に、他の地域が合わさっている。

以上が主な点で、北欧に興味のない人にはどうでもいいことだろう。ただ、私たちが顔や骨格から、中国や韓国朝鮮の人をなんとなく区別できる様に、スカンジナビアの国々もそれぞれ違いがわかると思う。とすると、この研究結果を思い浮かべながら、もう一度顔を見比べるとまた違った趣が出てくる気がする。是非日本、韓国、台湾などこのスケールのゲノム研究から、より詳しい交流史が描かれることを願う

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