昨日紹介したRepair-seqのアイデアには本当に感銘を受けたが、実はこの論文は、この方法を用いてプライム編集と呼ばれる新しい遺伝子編集法を改良したもう一つの論文とセットになっている。ただ、内容はRepair-seqの応用で、改善ポイントもわざわざこの方法を用いなくともわかっていると思ったので、紹介しないでおこうと思っていた。
ところが、全く独学で生命科学を勉強されている知人から、「Repair-seqは、遺伝子治療による遺伝子改変法の改良に役立つと思うがどうか」と聞かれたので、この問いに答える例として、昨日紹介した論文の次に掲載されている論文を、今日続けて紹介することにした。タイトルは「Enhanced prime editing systems by manipulating cellular determinants of editing outcomes(プライム編集システムの効率を編集結果に影響する細胞側の因子を操作することで促進する)」だ。
CRISPRと逆転写酵素を組みあわせたプライム編集が徐々に広がりを見せている。この技術についてはGIZMODOが詳しく解説しているので是非読んでおいてほしい(https://www.gizmodo.jp/2019/11/prime-editing.html) Casによってゲノムに切れ目を入れただけでは、何が起こるかコントロールできないところを、ガイドRNAに結合させた編集後の配列を逆転写酵素で読ませて、編集したい領域の片側のDNA鎖に挿入し、正確な遺伝子編集を可能にする技術だ。
例えばGIZMODOなどでは万能のように書かれているが、実は効率が良くない。これは当然で、編集した方のDNA鎖ともう一方で塩基ミスマッチが起こるため、再度、元の配列に戻ったりと、様々な問題が起こる。そのため、実際にはもう一つのCasを用いて編集されなかった側に切れ目を入れ、強制的に編集側にそろえると言った方法がとられている。
この研究では、このプライム編集系をレトロウイルスに取り込んで、Repair-seqと同じように、正確な編集に及ぼす遺伝子の影響を網羅的に調べている。プライム編集用のガイド配列を作成し直す必要があり、かなりのコストがかかったと思うが、結果はプライム編集過程について想定されていた分子が全てリストされてきた。
まず、DNA鎖をはねのけたり、切れ目を閉じたりする過程に関わる酵素が欠損すると、正確な編集効率が低下する。一方、期待通り、塩基の対応が一致しないときにそこを修復するミスマッチ修復に関わる分子を抑えてやると、効率が2倍に増える。
わざわざRepair-seqを使わなくても、大体想像がつくのにとは思うが、コンセプトを確かめるという意味では、完全に働くことがわかった。今後は、もっと複雑な、組み換え型の編集についても、同じようなテストが可能になるのではないだろうか。とすると、かなり期待できる。
Repair-seqを使った研究はここまでで、編集時のみにミスマッチ修復酵素(MMR)を一時的に抑える分子を開発し、またMMRを抑えるために適した塩基配列の特徴などを詰めていき、最後に逆転写酵素の活性を至適化して(これは大変なプロセスだと思う)、最終的にスーパープライム編集システムに仕上げている。そして、最終的には正確に編集できる効率50%を達成するに至っている。
以上が結果で、昨日の論文を読んだ後では、特に驚くというほどではないが、いずれにせよ膨大な実験を重ねて、新しい遺伝子編集系を論理的に作り上げている。
多くのデータを割愛して紹介したのと、専門外でも頑張って理解するという知人の意気込みにも触れたので、知人が都合のいい11月26日夜8時から、これら2編の論文の解説をYoutubeで配信することにした。Zoomに参加して一言話そうという人は、直接連絡してもらえればzoomアカウントを送ります。