CD19に対する抗体を受容体に使ったCAR-Tの臨床治験のデータを見て驚いたのは2014年、ずいぶん前のことだ(https://aasj.jp/news/watch/2309)。その後我が国でも保険収載され、現在ではNovartis以外にもいくつかの会社が細胞を提供している。とはいえ、最初期待したほどは普及していないのも確かだ。これは、ガンのみに発現する抗原がなかなか見つからず、CD19にしても正常B細胞の犠牲の上に成り立っている。
今日紹介するCAR-T研究が最も盛んなフィラデルフィア大学からの論文は、神経芽腫細胞の組織適合性抗原により提示されているペプチドの中から、正常細胞の発現がないペプチドを選び、これに対する抗体を一種のFvディスプレイ法で開発し、神経芽腫もCAR-Tで治療できる可能性を示した研究で11月3日Natureにオンライン出版された。タイトルは「Cross-HLA targeting of intracellular oncoproteins with peptide-centric CARs(HLAを超えて利用できる細胞内のガン遺伝子を標的にしたペプチドを核にしたCAR)。
CAR-Tは抗原とそれに対する抗体の開発が決め手になる。この研究では元々突然変異が少ない神経芽腫のMHCに結合しているペプチド7000種類を、質量分析を用いて特定、HLAとの結合性、正常組織での発現などで選択を繰り返し、最終的に13種類の神経芽腫特異的ペプチドの同定に成功している。重要なことは、全て正常分子由来のペプチドで、これらは全て発生初期に発現し、成熟後は正常組織から消失するいわゆる胎児分子に相当している。
最終的に5種類の胎児分子の中から、ガンが発現が持続するPHOX2B遺伝子を特定したあと、親和性の高いHLAと結合した複合体を抗原に結合する、抗体可変部を選んでいる。この目的にはretention-screeningと呼ばれる、バクテリアに10の11乗の突然変異を発現させたライブラリーを用いて、高い親和性の抗体を探している。そして、このFvをキメラT細胞受容体として持つT細胞を準備し、腫瘍個体に注射、強いガン抑制効果を持つことを確認している。
結果は以上で、
- 生化学的方法でペプチドを特定し、全くin silico探索を用いていない点、
- Fvを用いることで、いくつかのHLAと結合したペプチドに対応できること、
など、これまでとは大きく異なるCAR-T技術が完成した。コストを考えると簡単ではないが、是非推進を期待したい。
さて、私事になるが、昨日旅先で15kmのウォーキングの後、ほぼ脱水状態で温泉につかり、湯船から出た途端に意識を失い(おそらく立ちくらみ)、そのまま転倒にいたり、救急車で病院に担がれ、顔を数針縫う怪我とともに、左膝patella断裂に至った。応急処置を受けたので、今日神戸に帰って診察を受けるつもりだが、手術は必至なので、ひょっとしたら論文ウォッチを休むことになるかもしれない。途絶えても、おそらく元気で過ごしていると心配しないでください。