これまで老化した細胞を積極的に除去することで組織の若返りを図るsenolysisに関する論文は、何回も紹介してきた。中でも東大医科研の中西さんたちが発見した、glutaminaseを阻害すると細胞が酸性に傾いてsenolysisが起こるという発見は、特記すべき発見だろう(https://aasj.jp/news/watch/14787)。
しかしこれらの研究は、老化した細胞でも自然にはなかなか除去されないことを示している。ところが今日紹介するメイヨークリニックからの論文は、細胞周期を止めて老化を誘導することで知られたp21が、なんと細胞周期を止めるだけでなく、老化した細胞の周りにマクロファージを集めて免疫的に除去する作用もあることを示した研究で、どうして今まで気づかなかったのかと思うぐらい良くできた話だ。タイトルは「p21 produces a bioactive secretome that places stressed cells under immunosurveillance(p21はストレスを受けた細胞を免疫サーべーランスに回すための分泌分子を誘導する)」で、10月29日号Scienceに掲載された。
このグループは、細胞老化で活性化されるスーパーエンハンサーによる転写調節を研究する過程で、p21がRb1のリン酸化を介して細胞周期抑制に関わる分子だけでなく、免疫系や炎症に関わる転写因子、増殖因子、ケモカインの誘導に関わることを発見する。そして、p21を肝臓で誘導できるようにしたトランスジェニックマウスでは、p21発現場所にマクロファージが遊走することも確かめている。
この現象には、マクロファージの遊走を誘導するケモカインCXCL14が重要で、CXCL14に対する抗体を投与することで、p21へのマクロファージの遊走を止めることができる。ただp21/Rb1はSTATやSMADと言った炎症や免疫の遺伝子発現調節に関わる分子の発現も誘導するため、、マクロファージの遊走を引きつけるだけでなく、p21発現細胞が免疫センサーのテストを受けるよう周りの免疫環境をリプログラムしている。そして、時間が経つとp21誘導が維持される細胞は細胞死に陥る。ただ、この間p21の発現が落ちると免疫センサーから免れることができる。
以上の結果から、p21が発現すると、これまで知られていたようにRb1のリン酸化を通して、転写プログラムが変わり、細胞増殖を止め老化が誘導されるだけでなく、周囲環境をリプログラムして、最初にマクロファージ、次いで免疫細胞をリクルートするための因子を誘導して、老化細胞を除去していることになる。
P21はガン遺伝子Rasの強い活性によるストレスで発現して、発ガンを自然に抑えようとする分子であることも知られている。そこで、最後の仕上げに、マウス肝臓に活性化Rasが発現してp21が誘導される状況で、同じように周囲環境がリプログラムされるか調べ、K-ras活性化された肝細胞がp21を発現すると、周りにマクロファージが惹きつけられること、そしてこの遊走はp21がノックアウトされたマウスでは見られないことを示している。
少し複雑なので詳細は省くが、さらにこった実験を計画して、p21発現時間と、免疫サーべーランスのタイムスケジュールについて検討し、最終的に次のような発ガン時のp21機能についてのシナリオを提案している。
- 発ガン遺伝子によるストレスやp53によりp21が誘導され、細胞増殖を抑える。
- 同時にCXCL14などのマクロファージ遊走因子を発現し、マクロファージを周りにリクルートする。
- STAT,SMAD発現を介する免疫系分子の発現により、マクロファージを活性化する。
- その結果、免疫系の細胞がp21発現細胞局所にリクルートされることで、老化細胞を除去する。
すなわち、p21による細胞除去機構が、発ガン初期の細胞を除去する最初の前線として機能しているという話だ。また、紹介しなかったが、免疫サーベーランス誘導機能はp21特異的で、p16など他の細胞周期抑制因子にはこの作用が全くない。それぞれの細胞周期抑制因子がどう使い分けられているのか、今後の面白い話になるだろう。逆に、p21にこのような炎症誘導作用があるとすると、老化に伴う炎症inflammageingにも関わるのかもしれない。