Amgenが開発したKRAS(G12C)阻害剤Sotorasibについては、長年待望されていたRAS阻害剤がG12C変異に限るとしても、臨床応用にこぎ着けた最初の薬剤として、このHPで紹介し(https://aasj.jp/news/watch/11638)、さらに特別にYouTubeでも取り上げ(https://www.youtube.com/watch?v=xOe26eCpeoo)、個人的にも大きな期待を寄せていた。事実、この発表はAmgenの株価を大きく上昇させたことは、期待の大きさを物語る。その後、Amgenに続いて、同じメカニズムのKRAS(G12C)阻害剤が加速している。各国の承認についても、つい最近、経済性など厳しい審査の英国NHSが承認したし、我が国厚労省も希少疾患病用医薬品指定を行っており、臨床応用が加速すると考えられる。
ただ、最初の論文から、KRAS(G12C)阻害剤がガンの根治をもたらす可能性は低いことが推察されていた。確かに、KRAS(G12C)変異を持つ患者さんのガンを縮小させ、再発を平均7ヶ月程度抑えることができるが、その後はおそらく薬剤耐性ガンが現れる確率がかなり高い。
今日紹介する米国スローンケッタリング ガン研究所からの論文は、KRAS(G12C)阻害剤治療後の再発を誘導する遺伝子変異について、実際の患者さんと、動物実験系で確かめた研究で11月10日Natureにオンライン発表された。タイトルは「Diverse alterations associated with resistance to KRAS(G12C) inhibition(KRAS(G12C)阻害に対する耐性を誘導する様々な変異)」だ。
この研究では、この治療を受けた43例について、再発例は何らかの方法でガンゲノムをもう一度調べ、再発の遺伝的原因を確かめようとしている。
まずgood newsは、5%の患者さんではガンが完全に消失し、18ヶ月以上再発がない点で、部分縮小の場合でも、同じように再発がない例がさらに5%ほどいることだ。これらの患者さんの特徴を調べると、血中に流れるKRAS(G12C)の量が低く、体内のガン細胞の数が少ないことが想定される。従って、標的薬だからと、最初から使うのではなく、まず一般化学療法などでガンの量を減らしてからKRAS(G12C)阻害剤を使うプロトコルについて治験を行う重要性が示唆される。
このコホートでは、30例の再発があり、そのうち27例については遺伝子変異をキャッチすることに成功している。期待通り、最も多くの耐性につながると想定される変異は、他のRASの変異、あるいはKRAS自体の新しい変異によることが特定されている。しかし、RAS以外にも、様々な遺伝子の変異が再発の原因になっている。
今回特定された全ての変異が耐性に関わるとは思えないが、様々な変異が耐性とともに現れるというのはbad newsで、あらかじめ変異を予想して対応できないことを意味している。一方、RASと下流の変異については、最初から下流のMEKなどを抑制しておくことで、効果が長くなる可能性はある。
これを確かめる意味で、患者さんのガンを移植したマウスにKRAS(G12C)阻害剤を投与し、変異の出現を詳しく調べている。その結果、実験的な耐性獲得では、RASとその下流の新たな変異による場合が多胃ことが明らかになった。また、CRISPRを用いた遺伝子ノックアウトや、MEK阻害剤との併用で、確かにガンをより強く抑制できることが示されている。
結果は以上で、少なくとも2-3割の患者さんの場合、耐性がRASシグナル経路で起こってくることを考えると、最初からKRAS(G12C)阻害剤と、MEK阻害剤との併用は、耐性の出現を抑えるのに役立つように思える。
このように、耐性出現を丹念に追跡することで、新しい治療法が確立できる。今回のレッスンとしては、KRAS(G12C)阻害剤の前に、腫瘍細胞数をできるだけ減らす治療を先行させること、そしてできれば最初から(2-3割しか効果がないとわかっていても)、RAS経路の阻害剤を併用することがわかったと言える。