非小細胞性未分化ガン、トリプルネガティブ乳ガンなどは、脳転移の確立が高い。そして、脳血管関門など様々な要因で治療が難しく、脳転移は悪い予後を予測する要因となってしまう。確実にガンに届くという意味では、放射線治療が用いられるが、大きく予後を改善するところまでは行っていない。
今日紹介するコーネル大学からの論文は、脳転移腫瘍の放射線治療に対する感受性を、比較的大量に経口摂取するL-アルギニンが大きく高めることを示し、そのメカニズムを探った研究で、11月5日Science Advancesに掲載されている。
アルギニンは、NO産生を通して血流改善だけでなく、細胞の基礎代謝にも大きな影響を及ぼすことから、スポーツサプリにも使われている、明日からでも利用できる物質だ。この論文では、まず実際の臨床例の検討から行っている。
まずアルギニンからNOを合成するNOS2の発現を、非小細胞性未分化ガン、トリプルネガティブ乳ガンで調べると、9割近いガンがNOS2を発現し、そのうち19%は強く発現していること、そして機能的MRIを用いて、アルギニンを5−10g摂取した後24時間で、腫瘍中の乳酸が低下し、ガンの代謝に大きく影響していることを確認している。
この結果を基に、63人の脳転移の患者さんに、照射前にアルギニンを経口摂取させ、その後1日2回の分割照射を、最終的に54.4Gy照射を行っている。治験は無作為化偽薬試験で行っており、放射線以外の治療は受けていない。アウトカムはResponse evalutation criteria in solid tumorsガイドラインに沿ったと書いてあるだけで、長期予後を正確に調べたものではないと思うが、結果は上々で、少なくともcomplete responseが10%対30%、Partial responseが12%対48%と大きく改善し、脳転移に限れば、7割近い患者さんで、50ヶ月以上の再発なしの経過が期待できるというものだ。今後是非大規模な治験と、長期予後に関するデータをとって欲しいと思う。
この研究では、臨床データを示した上で、なぜアルギニン摂取がガンの放射線感受性を高めるのかを調べている。ガンを移植したマウスにアルギニンを投与、1時間でガンを取りだし代謝解析を行うと、解糖系がPhosphoglycerateのステップで抑制され、ピルビン酸、乳酸と合成が低下、TCAサイクルも押さえられ、ガンのエネルギー代謝が押さえられている。
重要なのはこれらの変化のほとんどが、NOを介して起こっている点で、NOS阻害剤で乳酸の合成など代謝異常は正常化する。さらにNOによる代謝異常を追求すると、PhosphoglucerateステップのGAPDHがNOを介してニトロシル化されて長期的に阻害されることを示している。
このようなエネルギー代謝抑制に加えて、同じニトロシル化による機構で、この研究では特定できていないDNA修復分子の抑制が起こる結果、放射線照射後の修復が著しく低下していることも示している。
結果は以上で、元々NOは血管新生による血流改善効果なども知られており、ガンへの薬剤の浸透も助けることから、アルギニンはメカニズムがわかった放射線療法の補助物質として期待できるのではないだろうか。