今日の午後8時、Repair-seqの論文を紹介するとともに、DNAの2重鎖修復全般についても短く解説する予定だ(https://www.youtube.com/watch?v=Hz9tCq8xWiA)。短い時間でまとめるつもりなので、DNA修復に興味がある人は是非見てほしい。さて、DNA損傷は二重鎖切断だけではない。一般の人にも最もポピュラーなのは、紫外線障害によりピリミジンダイマー形成など、核酸自体を化学的に変化させる。これに対しては、ミスマッチ除去修復という、これも複雑な過程で対応しているが、この過程に関わる様々な遺伝子突然変異の研究から、研究が進んでいる。
この過程が傷害されると、細胞ストレスによる炎症と、突然変異によるガン発生など共通の症状が見られるが、完全に説明できないのがコケイン症候群と呼ばれる病気で、障害を受けたDNA上で止まってしまった転写機構を感知し除去修復を誘導する役割があるCSAor B遺伝子の変異によることがわかっている。ただ、この遺伝子が欠損すると、他の除去修復分子変異と異なり、脳や腎臓の障害が誘導され、悪液質が進み、予後が極めて悪い。
今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、コケイン症候群の悪液質発症のメカニズムを明らかにし治療の可能性を示した研究で、11月24日号Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Aldehyde-driven transcriptional stress triggers an anorexic DNA damage response(アルデヒドによる転写ストレスが、食思不振を伴うDNA障害を誘導する)」だ。
紫外線から体を守っていても、コケイン症候群は進行する。すなわち、紫外線と同じようなDNA障害を誘導する原因が体内に存在する。この研究ではまず、フォルムアルデヒドが紫外線と同じよDNA障害を誘導し、除去修復機構が欠損すると、細胞死に陥ちることを示している。
フォルムアルデヒドを体の中で処理するのがAdh5なので、次にこの分子の欠損したマウスを作成し、これにコケイン症候群遺伝子CSBの突然変異を掛け合わせると、マウスにコケイン症候群と同じ症状を誘導することに成功している。マウスではCSBの変異を導入してもコケイン症候群を誘導できていなかったことから、マウスではフォルムアルデヒド除去機構が発達しており、Adh5ノックアウトを掛け合わせて初めて、同じ症状が見られるようになることを示している。
いずれにせよ、コケイン症候群を再現できたので、次にマウスで詳しく病態を調べ、特に腎臓の障害が著しいことを確認する。そして、single cell RNAseq を用いてネフロンの障害とともに、尿細管からGDF15と呼ばれる食欲を強く抑制する分子の分泌が高まっていることを発見する。すなわち、腎臓の障害とともに、食欲が抑制され、これが悪液質を誘導することを突き止めている。
ネフロン細胞の障害については改善できないが、GDF15を抗体で抑制すると、食欲は元に戻り体重減少や悪液質を止めることができることから、病気の進行を遅らせることができることがわかった。
結果は以上で、なぜ同じ除去修復プロセスに関わる遺伝子変異でも、コケイン症候群だけ全身の複雑な障害が出るのかよく理解できるともに、DNA修復がうまくいかないことが、多様な症状につながることも再認識できた。幸いアルデヒドの蓄積が主原因であるとすると、GDF15に対する抗体だけでなく、食事を工夫したりしてさらに進行を止める可能性も出てきたと思う。