レビー小体認知症(LBD)やパーキンソン病(PD)で神経変性の引き金を引くのは、αシヌクレインの蓄積であることはこれまで何度も紹介してきたが、これに加えて多くの神経変性疾患では、免疫性の炎症が起こっていることが示唆されている。
今日紹介するシカゴ、ノースウェスタン大学からの論文は、ここからさらに進んで、これらのシヌクレイン症では、シヌクレイン自体に対する特異的T細胞が関わっている可能性を示した研究で、11月12日号Scienceに掲載された。タイトルは「CD4 + T cells contribute to neurodegeneration in Lewy body dementia(CD4陽性T 細胞がレビー小体認知症の神経変性に貢献している)」だ。
この研究は全て患者さんの脳組織や脳脊髄液、末梢血を用いた仕事で、最終的に病因を実験的に確かめることはできない。従って、現象を積み重ねるスタイルの研究だ。
まず、亡くなった患者さんの黒質を免疫組織的に調べ、PDやLBDの患者さんでは、T 細胞の浸潤が何倍も多いこと、またこれらのT細胞はシヌクレインが沈殿したレビー小体と接して存在していることを確認している。
次に、正常およびPD、DLB患者さんの脳脊髄液から血液細胞を集め、single cell RNAseqを用いて脳に浸潤している血液細胞の遺伝子発現を調べると、他の細胞腫と比べて、CD4T細胞の転写が活性型に変化し、特にCXCR4やCD69の発現が高まっていることがわかる。一方、末梢血CD4T細胞のsingle cell RNAseqでは同じような変化は認められない。
CXCR4はT細胞浸潤を誘導する可能性があるので、黒質血管のCXCL12の発現、および脳脊髄液中のCXCL12を調べ。それぞれ上昇が見られることを示している。また、認知症の進行具合との相関も調べており、認知症の進行と弱い相関があることも確認しているが、示されたデータの差は大きくない。
この研究で最も大事なのは、患者さんのT細胞がシヌクレインに対して反応するかどうかだが、末梢血T細胞のシヌクレイン由来ペプチドに対する反応を調べると、
- 元々患者さんのT細胞は抗原なしでも活性が高い、
- ペプチドプールに対して患者さんT細胞は増殖反応を示す。
- 患者さんにより異なるが、特に強い反応を示すペプチドが存在する。
- 刺激によりCXCR4が上昇するとともに、炎症性サイトカインIL-17が誘導される。
を示している。すなわち、シヌクレインに対するT細胞が、患者さん末梢血、そしておそらく脳内にも存在しており、炎症の原因になっている可能性を示唆している。
もし本当なら、現象としては恐ろしいことだが、逆にPDやLBDを、免疫抑制やケモカイン阻害により治療する手立てがあることも示している。そこまで研究が進めないと、論文のための論文で終わってしまう。