NKT細胞は、私がまだ熊本大学に在籍していた頃、当時千葉大学の谷口さんたちによりVα14TcRとNK抗原を持つ不思議なT細胞として研究されていたのをよく覚えている。特に、キリンビールにより海綿から分離されたAgelasphinという物質が、CD1と結合してNKT細胞を増殖させるという発見と、それを注射することで抗腫瘍免疫が誘導されるという発見について、北海道の免疫学会で谷口先生から熱っぽく聞かされたのはよく記憶している。その後、私のほうが免疫学会から離れてしまったので、その後の経緯はフォローできていないが、現在でもNKT細胞を用いた腫瘍治療や、抑制性のNKT細胞を用いたアレルギー治療など、より臨床的な研究が進んでいるという印象がある。しかし、なぜこのような風変わりな細胞が誘導されて来るのかなど、わからないことは多い。
今日紹介するハーバード大学からの論文はNKT細胞を様々な程度に刺激できる多様なαgalactosylceramide(αGC)が腸内細菌の一つBacteroides fragilisによりアミノ酸を原料に合成され、利用されるアミノ酸によって合成されるαGCが変化し、結果NKT細胞の誘導のされ方が変わることを示した面白い研究で、11月10日Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Host immunomodulatory lipids created by symbionts from dietary amino acids(腸内共生細菌により食事のアミノ酸から合成される免疫調節性脂肪)」だ。
全くフォローできていなかったが、B.fragilisがαGCを合成して腸内でNKT細胞を刺激したり、逆にキリンが発見したリガンドKRN7000の効果を抑えたりしていることはこれまでの研究で知られていたようだ。
この研究では、B.fragilisが合成するほぼ全てのαGCを特定し、また産生量の多いαGCを化学的に合成できるようにしている。
こうして特定されたαGCは、基本的にはsphinganinと脂肪酸アシルが組み合わさった構造を持っており、側鎖のある脂肪酸が組み合わさったαGCのみNKT刺激効果が観察される。面白いことに、どのタイプのαGCがB fragilisにより合成されるかは食事中のアミノ酸の種類により決まる。そして、側鎖型αGCが合成できなくなったB.fragilisだけが存在する腸内では、個人的予想に反してNKTが上昇しており、実際の腸内では、合成される側鎖型、非側鎖型のαGCの組み合わせで複雑なNKT細胞刺激が起こっていることを示している。
最後に、B.fragilisが合成する側鎖型αGC(SB2217)について、NKT刺激効果を調べている。キリンリガンドKRN7000と比べたとき、SB2217はIL-2誘導能力は十分持ちながら、しかしインターフェロンやIL-4の誘導は低い。すなわち同じT細胞受容体を用いているからと言っても、CD1とリガンドがあれば同じように刺激されるわけではなく、T細胞の反応が異なるという驚く結果だ。
この違いについて結晶化したcCD1+リガンドとT細胞受容体の構造を解析しているが、なぜこれほどの違いが発生するのかについては、KRNがCD1ポケットから飛び出す部分が多い以外に、明確な答えは示せてはいない。
以上が結果で、同じCD1とT細胞受容体の組みあわせでも、αGCの違いにより、ポジティブ、ネガティブとNKT細胞刺激様態が変化できること、そしてこの変化が、おそらく摂取している食事中のアミノ酸に影響されるという発見は、 NKTだけでなく、腸内細菌叢による免疫制御について、新しい方向性を開いたのではないかと思う。
しかし、発生初期のNKT誘導は、単純に刺激型リガンドが合成されるから起こるわけではないことなど、invariantT細胞といいながら、極めて複雑なシステムであることもよくわかった。