そろそろ科学ジャーナルでは、今年の10大ニュースを選ぶ作業に入っているはずだ。読んだ論文から自分で選ぶとしたら、沈滞する我が国科学を励ます意味でも、東大医科研の中西さんの、「グルタミンからアンモニアへの代謝を抑えることで老化した細胞を積極的に殺すsenolysisを実現できる。」という論文(https://aasj.jp/news/watch/14787)は入れたいところだ。これまでsenolysisというと、ガンに用いる薬剤を組みあわせることが必須だったが、少なくともマウスレベルで、代謝阻害で同じ効果が得られることを示したのは大きいと思う。
いずれにせよ、senolysisの効果を確かめる研究は広がりを見せている。今日紹介する米国コネチカット州Ucon Health研究所からの論文は、脂肪組織のp21発現の高い細胞を除去することで、インシュリン感受性が高まり、ブドウ糖代謝が改善するという研究で、11月27日Cell Metabolismにオンライン掲載された。タイトルは「Targeting p21 Cip1 highly expressing cells in adipose tissue alleviates insulin resistance in obesity(脂肪組織p21高発現細胞を除去すると肥満によるインシュリン抵抗性を改善できる)」だ。
これまでもsenolysisを用いて代謝を改善する試みが行われてきたが、ほとんどはp16発現細胞を標的にしている。ただ、この研究では脂肪組織に注目し、不思議なことに高脂肪食を与えたマウスの内臓脂肪組織ではp16発現がほとんど見られない一方、同じ細胞老化のマスター遺伝子p21が高発現していることを確認し、p21発現細胞を除去することで、高脂肪食による代謝異常を改善できるか調べている。
結果は期待通りで、耐糖試験およびインシュリン感受性ともに改善が見られる。一方、脂肪量や体重には変化が見られないことから、インシュリン抵抗性だけが改善できたことになる。また、一月ごとにp21発現細胞を除去するだけで代謝改善を維持することができる。
この研究では、老化細胞が有害性を示すシグナルについても検討しており、p21発現細胞でNFkBを阻害すると、senolysisと同じ効果があることも示している。すなわち、老化細胞による自然炎症が代謝異常を引き起こしていることになる。
最後に、ヒト脂肪細胞をマウスに移植して代謝異常を誘導する実験系を確立し、このときダサニチブ+ケルセチンというsenolysis定番治療で、インシュリン感受性を改善させられることも示している。
以上、脂肪組織ではp21が老化誘導の主役であること、細胞老化の問題の一端がNFkBによる炎症誘導であること、そしてヒト脂肪組織移植により、ヒトの細胞老化を調べることができる点などが重要だと思う。
ただ、全体としては少し雑で、最終的に脂肪組織のどの細胞の細胞老化が問題かなどははっきりしないのが問題だと思う。実際インシュリン抵抗性はまだまだ複雑な過程だ。
最後に、p21が強く発現すると、わざわざ細胞を人工的に除去しなくとも、周りのマクロファージに食べられるという論文(https://aasj.jp/news/watch/18217)を紹介したが、この論文との整合性も気になる。