冬眠中は体温が0度に近づく Thirteen-line ground squirrels (13線地リス:GS)の冬眠についてはかなり研究されているようで、2018年には iPS細胞を作成して、細胞レベルで低温でも細胞内の微小管が崩壊しない理由について調べた素晴らしい研究をこのブログで紹介した(https://aasj.jp/news/watch/8240)。これに限らず、何ヶ月もの長い冬を、飲まず食わずで、しかも運動なしに過ごすためには様々なメカニズムを進化させることが必要になる。
今日紹介するイェール大学からの論文は、冬眠中に一時覚醒するGSが、覚醒中の欲望、特に渇きにより水を飲む本能的行動をどう抑制しているのか調べた研究で、11月29日 Science に掲載された。タイトルは「Suppression of neurons in circumventricular organs enables months-long survival without water in thirteen-lined ground squirrels(脳室周囲の神経を抑制することで13線地リスは水なしで何ヶ月も生きることができる)」だ。
クマの冬眠は浅い眠りと言われているが、起きることはなく、ずっと飲まず食わずで寝ている。しかしGSは深い眠りだが、たまに覚醒するらしい。以前紹介したように、体温が極端に低下しているのに覚醒できるのかも気になるが、覚醒時欲望が生じると水バランスなどは危険域に達してしまう可能性があり、渇きを抑えて摂水行動を抑えることが重要になる。
この研究グループは、GSの冬眠中の摂水行動に焦点を絞って研究を続けているようで、GSが長い冬眠中にもほとんど血液の浸透圧は変化せず、低浸透圧による渇き刺激は起こらないことを示している。しかし、体温が低くても生きていれば代謝は起こるので、供給がないと体液量が減るはずで、体液料低下を感知するアンジオテンシンとアルドステロンが2倍になっている。にもかかわらず、一時的覚醒時通常なら摂取しない濃い食塩をなめるのに、水を摂取する行動は全く起こらない。不思議なのは NaCl には反応するのに KCl には反応しない点で、よくできていると思うが、このメカニズムも是非知りたいところで、冬眠にはまだまだ面白い課題があることを示している。
とすると、摂水中枢でのアンジオテンシンに対する反応性が低下していると考えられるので、脳室周囲にある摂水中枢のアンジオテンシンに対する反応を調べ、
- 一時覚醒時にはアンジオテンシンやアルドステロンは中枢の反応性細胞まで届いている。
- カルシウムイメージングで調べるアンジオテンシンに対する反応は、正常でも一時覚醒時でも変わりはない。
- ただ、カリウムに対する反応は低下している。
以上、一時覚醒中はアンジオテンシンに対する神経反応は起こるが、神経自体は何らかの抑制を受けている。
そこで、アンジオテンシンで刺激したときの神経の反応を Fos の発現で調べると、3Mの食塩を注射して渇きに反応する神経の興奮を調べると、強く抑制を受けていることがわかる。このため、渇きが抑制され、摂水が起こらないことになる。
最後に、神経細胞レベルでこのメカニズムを探ると、神経細胞レベルで興奮は強く抑制され、強く分極しているため、刺激に対する反応が抑えられていることがわかった。抑制神経の刺激を受けるGABA受容体の数も上昇しており、抑制神経がこの原因であることはわかる。
以上が結果で、なぜ抑制神経に対する感受性が上昇するのかのメカニズムについては明らかでないが、冬眠中のリスは一時覚醒しても水を欲しないのは、摂水中枢が働かないよう抑制されているからだというのが結論になる。結局単純な話になってしまっており、本当のメカニズムの解明はまだまだだ。