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今年一押しの論文を語り合うジャーナルクラブ開催のお知らせ。

2024年12月21日
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例年トップジャーナルがまとめた今年の10大ニュースを紹介してきましたが、今年はNatureもScienceも、どの論文が面白かったと言ったまとめは発表していません。そこで、12月26日、7時半から、参加者それぞれが持ち寄った今年一押しの論文を紹介し合いたいと考えます。プログラムとしては、まず私が各紙の今年の振り返りを簡単に紹介した後、いくつかの分野に分けて一押し論文を紹介し、今年のトレンドを探りたいと思います。そのあとで岡崎さんにCAR-T分野の一押し論文を紹介してもらいます。今回も直接参加希望の方にはzoom URLをお送りしますが、できれば今年の一押し論文をそれぞれ紹介していただければと思います。ふるってご参加ください。

カテゴリ:セミナー情報

12月21日 梅毒はアメリカで発生しコロンブス時代にヨーロッパに持ち込まれた(12月19日 Nature オンライン掲載論文)

2024年12月21日
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様々な歴史的疑問を古代 DNA 解析を通して明らかにする研究について何度も紹介してきたが、今日紹介するこの分野をリードするドイツ・ライプチヒのマックスプランク進化人類学研究所からの論文は、梅毒に罹患していた古代人から原因菌であるトレポネーマの DNA を分離し、梅毒がコロンブス時代にアメリカからヨーロッパに持ち込まれたという通説が正しいことを明らかにした研究で、11月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Ancient genomes reveal a deep history of treponemal disease in the Americas(古代ゲノムによってトレポネーマによる病気のアメリカ大陸での歴史が明らかにされた)」だ。

この論文を読むまで、梅毒はコロンブスのアメリカ発見以降、船乗りによってアジア・ヨーロッパに持ち込まれたと思っていた。しかしこの通説に関しては様々な異論があったようだ。一つは、熱帯型のトレモポネーマ感染症が何種類も知られており、赤道近くで世界的に分布が見られ、しかもサルにも感染が確認されていることから、必ずしもアメリカ起原でなくても現在の梅毒を説明できるとする議論があったようだ。もしアメリカ起原だとすると、これら熱帯型トレポネーマについてコロンブス以前にアメリカで進化していたことを示す必要がある。他にも、中世に存在したとされる性感染する癩病の記録や古代人の病理学が主張するコロンブス以前にヨーロッパ人で見られた梅毒の可能性なども主張されていた面白い領域だったようだ。

現在では抗生物質のおかげで進行した梅毒を見ることはほとんどなくなったが、それ以前は出産時に感染していた子供だけでなく大人にも骨膜炎が見られたようだが、 この研究ではまずアメリカ大陸から発掘された骨格の標本から梅毒に特徴的な病変を示す骨を探し、最終的にメキシコ、チリ、ペルー、アルゼンチンから5体の梅毒感染したコロンブス以前の骨格を見つけている。

期待通りこの骨から抽出したゲノムには本人のゲノムの他にトレポネーマのゲノムも発見され、これを分析して当時感染していたトレポネーマのゲノムを再構成している。再構成したゲノムがホストと同じような経年変化を受けていること、またホストの正確な年代測定などを検証した後、この5種類のトレポネーマゲノムを、これまで世界で分離されていたトレポネーマゲノムと比較し、トレポネーマの系統樹を作成している。

詳細を省いて結論だけを、コロンブス以前を含め多くのトレポネーマ(熱帯型も含む)の進化史をたどると、9000年ほど前にトレポネーマとしてアメリカ大陸で枝分かれし、人間の感染症として多様化し、その中で熱帯型も形成されている。おそらく熱帯型は起原が異なるのではなく、同じトレポネーマが熱帯地域で特別な表現系をとると考えられる。そして、現在存在する様々なトレポネーマの系統は全てコロンブス以前の南米に存在し、今回解析された5種類のとレポネーマの多様性の枠内に収まる。

以上の結果から、コロンブス以前に梅毒はヨーロッパに存在せず、アメリカ大陸のエンデミックがコロンブス以降ヨーロッパに持ち込まれたと考えられると結論している。

おそらくこの研究所では、世界中から様々な歴史問題が持ち込まれ、その解明に取り組んでいるように思う。

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