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12月8日 進化する SynNotch 遺伝子スイッチシステム(12月6日 Science 掲載論文)

2024年12月8日
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抗原に出会うと Notch シグナルが活性化して、同時に導入した遺伝子の発現のスイッチを入れる synNotch システムについては以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/21145)。この論文では、腫瘍特異的 CAR-T に IL-2 を分泌させる synNotch システムを組み込んで、CAR-T が腫瘍に到達したときキラー標的抗原を synNotch 刺激にも使いキラーが働く局所だけでT細胞を増殖させる方法で、CAR-T が苦手とする固形ガンの増殖を見事に抑制しているのに驚いた。残念ながら ClinicalTrial Gov. で調べても IL-2 の治験は登録されていないが、synNotch でキメラT細胞受容体が発現する And型の CAR-T は現在リクルートが進んでいるようだ。

今日紹介する、同じカリフォルニア大学サンフランシスコ校から12月6日 Science に発表された2編の論文は、同じ synNotch を使うと、免疫を抑制するサプレッサーT細胞を作ったり、あるいは脳でだけ働くキラー細胞やサプレッサーT細胞をつくることが可能で、様々な分野に応用が可能になることを示した研究だ。タイトルは、「Engineering synthetic suppressor T cells that execute locally targeted immunoprotective programs(局所で免疫反応を抑える人工サプレッサーT細胞)」と、「Programming tissue-sensing T cells that deliver therapies to the brain(組織を感知してそこでだけ治療効果を発揮するT細胞をプログラムする)」だ。

基本は synNotch で特定の抗原に反応して転写がオンになるシステムだ。今回は、免疫を抑制するサプレッサーシステムの設計で、局所で免疫抑制サイトカインが分泌されるよう設計している。これまでも抑制性 CAR-T をデザインする試みは行われてきたが、この研究ではい免疫抑制性サイトカインだけでなく、いくつかの遺伝子も加えてデザインし、様々なコンストラクトを調べ、最終的に TGFβ1 と CD25 を同時に発現さる synNotch コンストラクトが、キラー細胞の増殖を抑え、標的細胞を守る効果があることを明らかにする。CD25 は最初組織中に分泌されている IL-2 を取り除いて他の細胞の増殖を抑える目的で発現させるが、その後の実験でサプレッサー細胞に選択的に IL-2 が利用されるのも助けていることがわかった。

タイトルを見て IL-10 を使うのかと思ったが最終的に TGFβ1 担ったのも面白く、実験的に確かめて最も有効なシステムをくみ上げている。最初は移植した腫瘍に対する CAR-T の作用を抑えることを指標としてサプレッサーT細胞機能を詳しく検討したあと、最後は試験管内で形成させた膵臓 β細胞に対するキラーT細胞をサプレッサーT細胞で抑えられるか検討している。

もちろんこの方法を1型糖尿病の発症予防に使うことを目的でシステムを構築しており、人工的抗原を発現させた β細胞を移植し、これに対するキラー活性をがサプレッサーT細胞により抑えられることを示している。

残念ながら NOD マウスの糖尿病発症抑制実験までには行っていないが、すでに特異抗原に対する抗体は開発されているので実験が行われていると思う。これができると1型糖尿病の発症抑制が現実のものとなる。

もう一つの論文は、現在 synNotch を用いる治験の対象になっている、グリオーマ治療の特異性を高めるためのシステム構築になる。グリオーマに対する CAR-T 治療は期待を集めているが、標的に選ぶ抗原の特異性の問題がつきまとう。そこで、脳には発現していない抗原を選んだ上で、これに対するキメラ受容体を、脳組織だけに存在する分子でスイッチが入る xynNotch を用いて誘導し、脳でしか働かない CAR-T の開発にチャレンジしている。

研究のハイライトは、脳特異的な分子の特定で、最終的に BCAN と呼ばれるマトリックス分子に対する抗体を用いた synNotch を構築し、これによりグリオーマに発現する抗原を標的にしたキメラ受容体をただ発現させただけの CAR-T と比べても強い活性を持つキラー活性を誘導できることを示している。同じ腫瘍を脳以外に移植した場合は、全く抑制できないことから脳特異的に働く CAR-T ができた。

最初、synNotch として発現させる抗体によって脳内にトラップされ、腫瘍に到達できないのではと思ったが、全く杞憂で、この形で様々なケモカインも誘導でき、腫瘍にしっかり到達して、高い活性を示してる。

また、この方法を脳に転移した乳ガン特異的キラー細胞として使えることも示しており、かなり大きな期待ができる。

そして最後に同じ synNotch システムで IL-10 を誘導することで、多発性硬化症のような脳内での免疫性炎症を抑えられることまで示している。

結果は以上で、同じシステムの使い回しで、多様な免疫操作が可能になることが示されており、またこのシステムの治験も始まっているようなので期待できる。

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