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12月6日 自閉症で高率に見られる CPEB4 スプライシング異常の生化学的解析(12月4日 Nature オンライン掲載論文)

2024年12月6日
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自閉症のゲノムについては解析が進み、レアバリアントとコモンバリアントが統合された一つの状態が神経回路形成に影響して起こると考えられている。一方で、自閉症の細胞で見られる頻度の高い変化を捉えようとする試みも行われ、その一つが2019年、このブログで詳しく紹介したスペイン・オチョア分子生物学研究所からの研究(https://aasj.jp/news/autism-science/11072)で、自閉症神経細胞ではCPEB4 と呼ばれる mRNA の polyA の長さを調節する分子のエクソン4番が飛んでしまっている率が高く、この結果神経機能に関わる様々な分子の翻訳が低下すること、その結果マウスでは自閉症に見られる症状が現れることを示した素晴らしい研究だった。

ただ、ではなぜ小さなエクソンが欠失した分子が少し増えるだけでかなり大きな翻訳の変化につながるのかの詳しいメカニズムは示されていなかった。今日紹介するスペイン生物医学研究所からの論文は、2019年の論文の続報で、CPEB4 の小さなエクソンが相分離やタンパク質の凝集の調節に関わることを示した研究で、12月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Mis-splicing of a neuronal microexon promotes CPEB4 aggregation in ASD(神経細胞で CPEB4 のミクロエクソンがスプライス異常を起こすことで CPEB4 の凝集が起こることが ASD に関わる)」だ。

CPEB4 のように特定の標的分子がない場合は、その量の調節が重要になる。これまでの実験で、この量の調節に CPEB4 の相分離が重要な役割を演じていることがわかっていた。余談になるが、以前紹介したように MECP2 も相分離によりクロマチンの構造を決めており(https://aasj.jp/news/watch/13574)このバランスが崩れることで、多くの遺伝子の発現が上昇したり、抑えられたりして病態を形成しているようで、相分離は今後の研究の重要な鍵になりそうだ。

研究ではまず GFP で CPEB4 を標識し、神経細胞の定常状態で相分離して存在していること、そしてこの相分離が神経の脱分極に伴う pH 変化により誘導され、相分離体は CPEB4 を隔離して機能を抑制する働きがあることを示している。

次に、自閉症で高率見見られる BPEB4 エクソン4欠損(Δ4)の相分離を調べると、Δ4 分子は相分離から溶けでやすいことがわかった。とすると、機能が高まっていいはずなのになぜ翻訳の低下が起こるのかを相分離だけでは説明できない。CPEB4 の分子構造は相分離だけでなく、タンパク質凝集にも関わることを示しているので、次に凝集塊の形成をしらべると、Δ4 では不可逆性の凝集が形成されやすく、しかも少しだけ存在するだけで相分離体の中で正常な CPEB4 も巻き込んだ凝集体を形成し、CPEB4 機能を抑制していることがわかった。

この凝集体形成には CPEB4 のヒスチジンクラスターによることがわかるが、Δ4 に存在するアルギニンクラスタがこれを抑制していると考えられる。とすると、Δ4 ペプチドだけでもヒスチジンクラスターによる凝集を阻害できると考えられ、Δ4 を模したペプチドを Δ4 欠損分子に加えると、凝集形成を抑えることができる。

以上、このペプチドを用いて治療できるかどうかわからないが、なぜ神経症状が中心なのか、なぜ少しの Δ4 欠損分子の存在が翻訳異常を誘導するのかなどがよくわかる研究だと思う。

しかし MECP2 といい CPEB4 といい、神経細胞では相分離、タンパク質凝集という視点から以上を見直すことの重要性がクローズアップされた感がある。

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