コーンシロップという形状で多くの飲料や食品に果糖が含まれており、我々の健康を損なっていることがわかっている。小腸上皮で代謝されるが、そのキャパシティーを超えると直接肝臓に果糖が流れ込んで脂肪肝の原因になる。さらに、APC遺伝子欠損マウスのポリープ発生をコーンシロップが上昇させることも知られており(https://aasj.jp/news/watch/9897)害は代謝にとどまらない。
今日紹介するワシントン大学からの論文は、腫瘍の増殖速度を果糖摂取が上昇させるのは、果糖が直接ガンの栄養補給に寄与するのではなくホストの肝臓で処理された脂質が増殖を助けていることを示した研究で、果糖の効果の複雑さを示す典型研究。12月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dietary fructose enhances tumour growth indirectly via interorgan lipid transfer(食品に含まれる果糖は臓器間の脂質の移動を通して間接的に腫瘍の増殖を高める)」だ。
これまでも腫瘍の増殖を果糖が促進することは報告されており、この研究でもゼブラフィッシュ、マウスの移植ガン実験システムを用いて、果糖摂取がガンの増殖を促進することを確かめている。最初はメラノーマを用いて調べていたが、乳ガンや子宮頸がんでも同じ効果が得られることを確認し、一般的にガンの増殖はフルクトース摂取により促進されると結論している。実際示された図を見ると、効果は著しく、ガンによっては1ヶ月後のサイズが2倍を超える場合も見られ、驚く。これを見るとガンがあるとわかったら、間違ってもコーンシロップ入りの清涼飲料水を飲まないようにしようと思う。
ただ、これは移植ガンの話で、試験管内でのガン増殖系に直接果糖を加えても何の効果もない。これは、ガン細胞では直接果糖から F6P が形成される酵素システムがないためで、ガンが果糖をエネルギーとして利用できる能力は限られている。
とすると、果糖が肝臓で処理されるときに、ガンの増殖を助ける分子が形成されると考えられる。そこで果糖を摂取したとき肝臓で合成されるガン細胞で消費される分子を探ると数種類の lysophosphatidylcholin (LPC) がクローズアップされてきた。果糖の利用に必要なKHK阻害剤を投与すると、LPC の合成が抑えられ、腫瘍の増殖も低下する。また LPC を直接投与すると、ガンの増殖が促進される。そして、腫瘍は取り込んだ LPC をポスファチジルコリンに転換して利用していることを明らかにしている。
結果は以上で、最終的にエネルギーとして果糖が使われているわけではなく、肝臓で副産物として合成される細胞膜の成分フォスファチジルコリンの材料を提供され、分裂に利用していることが示されている。エネルギーだけでなく、様々な材料を使い尽くそうとするガンの姿を見ることができるが、逆から見ると、ガンは兵糧攻めに弱いことになる。繰り返すが、ガンと診断されたら間違ってもコーンシロップを含む飲料や食品は避けた方がいい。