リンパ節は哺乳類になって初めて現れる器官で、局所の免疫状態を感知して、特異的免疫反応に必要なリンパ球の種類をリクルートして、迅速に外来抗原に対応する基地の役割がある。まさに、炎症を組織化するために進化した器官だ。
身体に存在するリンパ球は膨大な数で、それらが無秩序に動員されると混乱を来すだけだ。そこで、特定のリンパ球をリクルートする複雑なケモカインネットワークがリンパ球には存在し、必要なときに必要なリンパ球をより選択的に動員できるようにできている。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校、ケモカイン研究の第一人者 Cyster 研からの論文は、平時と炎症時でケモカインネットワークが変化することで感染に対応していることを示した研究で、12月27日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Inflammation switches the chemoattractant requirements for naive lymphocyte entry into lymph nodes(炎症が化学誘起物質の依存性をスイッチしてリンパ球のリンパ節への流入を調節する)」だ。
論文を読んでいて、基礎知識がないとおそらくついて行けないなと感じるぐらい複雑な論文だ。ただ、研究はリンパ節へのリンパ球のホーミングは CCL21 とその受容体 CCR7 が調節しているという通説を疑うプロの視点から始まっている。すなわち、局所炎症が起こると肝心の CCL21 の発現がリンパ節で低下するという気づきから始まっている。
そこで炎症時という最もリンパ球ホーミングが必要な時期に働くケモカインや遊走誘導因子を探索するため、多くの実験を重ねたのがこの論文で示されている。ただ、複雑なので結論だけをいかにまとめておく。
実験では足蹠にウイルスを感染させ所属リンパ節の変化を見る実験系を使っている。
- 感染後24時間目で見ると、メカニズムははっきりしないが CCL21 の発現は強く抑えられる。そのため、通常のリンパ球のホーミングは阻害される。
- 代わりになる遊走分子を探索する過程で、血管内皮でコレステロールを 25-hydrocholesuterol に転換する酵素 Ch25 、そして樹状細胞で 25-hydrocholesterol を遊走活性のある 25-dihydroxycholesterol(25HC) に転換する酵素 Cyp7b1 が強く誘導されることを発見する。
- この結果、炎症により血管内皮で hydrooxycholesterol が合成分泌され、それを近くに存在する樹状細胞が取り込んで、25HC を分泌して、樹状細胞から血管内皮への 25HC 勾配が形成され、これにより 25HC の受容体 EBI2 を持つリンパ球が血管から遊走するようになる。すなわち、遊走因子のスイッチが起こる。
- EBI2 は記憶リンパ球で強く発現しているので、このスイッチにより記憶リンパ球をより優先的に動員することが可能になる。
- この血管内皮近くの遊走因子スイッチをさらに補助するために、リンパ節内に存在するランゲルハンス細胞と呼ばれる皮膚からリクルートされてきた細胞も 25HC 分泌に参加する。
- また、通常のリンパ球ホーミングにはそれほど寄与しない CCL19 も炎症時には働いて、平時のホーミングを炎症型に変化させるのに一役買っている。
- 同じことは腫瘍組織でも見られるので、腫瘍組織で遊走因子のスイッチを起こすことで、抗ガン免疫を高める可能性がある。
以上が結果で、長年この分野を牽引しているプロの実験について解説できないのは残念だが、免疫反応調節の複雑性がよく理解できる論文なので、是非読んでみてほしい。こうして得られた知識が、新しいワクチンやアジュバントに生かせることも申し添えておく。