過去記事一覧
AASJホームページ > 2024年 > 12月 > 30日

12月30日 転写因子によるリプログラミング過程の詳細な解析(12月18日 Nature オンライン掲載論文)

2024年12月30日
SNSシェア

山中さんが iPS細胞について初めて発表した Wisler の Keystone ミーティングで、私は座長をしていたが、あっけにとられて職務を忘れるぐらいの衝撃だった。気がつくとマイクの後ろに質問者の長蛇の列で、運営のルールなどどこかに飛んでしまった。しかし、このとき皆の頭にあったのは、どうして染色体構造で守られている山中4因子の結合部位を、4因子を発現させるだけで開けることができるのかという疑問だった。ただ、この問いには山中さんも答えられない。

この問題についてはその後多くの研究が行われ、閉じた染色体でもモチーフに結合できるパイオニア因子についてわかってくると、Myc 以外の因子にこの機能があり、閉じた染色体をランダムにアタックしているうちに多能性を決めるモチーフが開いて、そこに多能性を決める Oct/Sox2/Klf4 が結合すると考えられるようになった。

今日紹介するエジンバラ大学からの論文はまさに閉じた染色体が開く過程を詳しく解析したかなり専門的な論文で、エピジェネティックスの解析手法の進歩を感じさせる研究だ。タイトルは「Nucleosome fibre topology guides transcription factor binding to enhancers(ヌクレオソームのトポロジーが転写因子のエンハンサーへの結合をガイドする)」だ。

この研究では、線維芽細胞に山中4因子を発現させて iPS細胞を誘導するだけでなく、トロフォブラスト幹細胞へのリプログラミングも同時に調べているが、簡単にするために iPS細胞誘導リプログラミングに絞って紹介する。

研究では4因子誘導48時間目の細胞と、誘導前、そして iPS細胞を比べることで、iPS細胞ヘ変化する途中過程で起こっている4因子の結合と染色体構造変化を追跡している。

まず、閉じた染色体にも結合できるパイオニア因子活性を持つ因子が、Oct4、 Sox2、Klf4(OSK)で、Myc はオープン染色体にしか反応しないことを確認する。

閉じたクロマチンと言ってもヒストンの上から結合するわけではない。ただ、パイオニア因子が結合下回りの染色体は閉じていると想定される。そこで、各因子が結合している周りのヌクレオソーム構造を詳しく調べている。

この結果、最初の段階ではそれぞれの因子が独立したパイオニア因子としてヌクレオソームに割り込むような形で結合しているうちに、ヌクレオソームがほどけ、OSK が同時に結合できる部位が開いたところで、初めて全因子が揃って結合するエンハンサーが生まれることを示している。そして、それまで単独で反応を繰り返していた OSK それぞれが、初めてそこに集まることを示唆している。

そして OSK3因子が一緒に作用する部位は、染色体のトポロジー解析から、個々の因子が自然に集まってくるように3次元的にクロマチン高次構造で決定されており、とくにリンカーヒストンと呼ばれるヌクレオソームの外側に結合するヒストンの結合が低下した、クロマチンの糸が折り曲がるループが集まった部位に3因子が結合することを示している。

結果は以上で、極めて専門的な実験なのでかなり割愛して紹介したが、ウォディントンやドリーの伝統が生きているエジンバラ大学にふさわしい素晴らしい研究だと感心した。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031