NASHは脂肪代謝の変化により肝臓の脂肪化が急速に進む病気で、他の肝炎と同じように肝硬変や肝ガンへと進展する危険を孕む病気だ。この脂肪代謝の変化を抑える可能性として、Triacylglycerol合成の最終ステップに関わる酵素diacylglycerol acyltransferase (DGAT)抑制が効果があるのではと考え、阻害剤の開発が続いている。これまでDGAT1の阻害剤は臨床治験にまで到達したが、消化器症状が強くそれ以上進んでいない。これはDGAT1の基質特異性や組織発現の問題と考えられ、より強いDGA特異性を持つDGAT2阻害剤の開発が進められ、ファイザーはPF-06427878(PFと略す)という化合物を開発した。
今日紹介するファイザー社研究所からの論文はこの化合物の全臨床実験から第1相の治験までの結果をまとめたもので11月27日のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Targeting diacylglycerol acyltransferase 2 for the treatment of nonalcoholic steatohepatitis (Diacylglycerol acyltransferase 2阻害によるNASH治療)」だ。
ファイザーの研究所からの論文だけあって、創薬のプロセスがよくわかる。最初からDGAT2という標的とそれに対する阻害剤が存在しており、この効果を臨床まで順番に見ていくことになる。
試験管内での酵素活性阻害効果確認の後は、肝臓細胞を使ってトライグリセライド(TG)合成阻害を11nM程度で抑制することを示し、ラットを用いた試験に移る。予想通り西欧型食事を摂取させたラットでも血中TGの低下を誘導することが確認される。それだけではなく、おそらくDAG合成が阻害されることで、脂肪合成全体に影響が見られる。実際、肝臓で脂肪合成を調節する転写因子SREBP1の発現を高脂肪食ラットで調べると、発現が正常化することも確認される。
この結果を受けて次にNASHモデルマウスを用いてこの化合物を投与すると、脂肪肝を元に戻すことができるだけでなく、炎症や繊維化を防ぐことができる。すなわち脂肪代謝を正常化することで、それによる肝臓細胞への刺激を抑えて炎症を止める。
つぎにサルを用いて毒性テストを行い。高い濃度でもほとんど毒性がないことを確認して、第1相の臨床テストに写っている。39人の正常人に様々な用量を経口投与し、2週間目の副作用を調べたところ、はっきりしたものは認められなかったが、心拍数の増加が見られた。
つぎに正常人の肝機能を調べると、GOTやGPTの値が低下するとともに、ALPも低下が見られた。ただ、有意差がない程度の低下。またTGの低下についてははっきりと認められなかった。特に、MRIを用いた肝臓脂肪の検査で、31%の低下がみられ、期待が膨らんだ。
というところで、この研究は終わっている。そしてディスカンションで、この化合物はまだ完全に至適化できておらず、慢性投与に向かないという一言で終わってしまっている。
従って、DGAT2を標的にした創薬可能性については明確だが、薬はまだできていないという結果になる。結局、論文を書いて終わろうといった感じだが、ちょっと拍子抜けだ。しかしぜひ至適化された化合物まで、どこでもいいので作って欲しい。