これまで人間で抗原に対する抗体反応を調べようと思うと、抗原に結合している抗体を分離して、アミノ酸配列を調べるか、最近では抗原に結合するB細胞を分離してそれが発現する抗体遺伝子を調べる方法がとられる。ただ、抗体にしても、B細胞にしても、精製したときにはどの程度強い抗原特異性があったのかは、一旦アミノ酸配列が決定されて、抗体を再構成してからでないとわからない。
今日紹介するバンダービルド大学からの論文は、この問題をバーコードをつけた抗原を用いることで一挙に解決した面白い方法で12月12日号のCellに掲載された。タイトルは「High-Throughput Mapping of B Cell Receptor Sequences to Antigen Specificity(B細胞の抗原受容体のハイスループット解析)」だ。
基本的には方法論の問題なので、その点のみ詳しく紹介する。
この方法では現在急速に普及している単一細胞の遺伝子解析技術を用いている。まず抗原に蛍光とDNAバーコードを結合させる。この抗原をB細胞集団と混合して、抗原に結合した細胞だけをまずセルソーターで精製する。こうして、抗原特異的B細胞に抗原特異性を示すバーコードをつけることができる。重要なのは、一つのB細胞に結合したバーコードの数が、抗原結合性を反映することで、後で反応が強いB細胞のデータだけを取り出すことができる。
ただこれだけでは、一個一個の細胞を識別することはできない。そこで、精製したB細胞を一個づつ油滴の中に包み込むとき、バーコードのついたビーズを一緒に入れることで、各細胞がバーコードラベルされる。
あとは、細胞を処理し、それぞれのバーコードと、免疫グロブリンA遺伝子の配列を決定すると、抗原特異性、抗原の結合程度に対応する免疫グロブリンA遺伝子の配列を決めることができる。
この方法がうまくいくか、エイズウイルスに長年感染して強い免疫反応を獲得している患者さんの血液を分析し、これまで他の方法で得られた結果に対応する、抗原特異的免疫グロブリン遺伝子配列を特定できること、さらにはこれまで発見されていない免疫グロブリン配列も多く発見できることを示している。
また、何種類もの抗原に対して同時に反応を調べることもできる。以上、要するに、うまく働くということで、今後様々なウイルスに対する免疫グロブリン遺伝子ライブラリーが作成できることがよくわかる。
今後、人間から直接モノクローナル抗体を作るという技術の基盤として使われると期待できる。ただ、個人的感触だが、免疫反応の解析という意味では、モノクローナル抗体作り以上の用途がひらけているように思う。抗原さえわかっておれば、人間の免疫反応を詳しく調べることができ、抗体遺伝子だけでなく、他の遺伝子発現も個々のB細胞で同時に調べることができる。新しい人間の免疫学がまた一歩進んだことを実感した。