網膜は、桿細胞と錐体細胞で光を感受、そのシグナルをまず網膜内で統合した後、そのシグナルを総局細胞を経て神経節細胞に伝達するよう配置された、美しい構造を持っている。このスキームでは、光はあくまで桿細胞と錐体細胞で感受することになるが、実際には神経節細胞も光を感じる能力がある。
以前光感受性色素を静脈に注射するだけで、桿細胞と錐体細胞の失われた網膜に光感受性を取り戻せることを示した論文を紹介したが、(https://aasj.jp/news/watch/5866)、これは神経節細胞の中に光感受性色素が浸透して、P2Xと呼ばれる受容体を介して光シグナルを興奮に変えることができる。
ただ、わざわざこのような色素を導入しなくとも、神経節細胞の中にはメラノプシンを使って光を感じる細胞があることがわかっている。今日紹介するソーク研究所からの論文はこの機能がヒトの網膜神経節細胞にも残っていることを示した論文で12月6日号Scienceに掲載された。タイトルは「Functional diversity of human intrinsically photosensitive retinal ganglion cells (固有の光感受性能力を持つ網膜神経節細胞は機能的に多様化している)」だ。
研究は極めてオーソドックスで、手術で切除されたヒト眼球から得られた網膜片を多数の電極の上で培養し、個々の神経節細胞の光に対する反応を一個一個電気生理学的に調べている。
この条件ではもちろん桿細胞と錐体細胞からのシグナルも神経節細胞に入るので、シナプスによるシグナル伝達は全てブロックするという条件で調べると、光を当て始めて少しして反応が始まり、明かりを消してもしばらく興奮が続く活動をひろうことができ、これが神経節細胞によることを明らかにする。
ただ全ての神経節細胞が反応しているわけではなく、1ミリ平方あたり2.5個の細胞が反応に関わる。ここの細胞の反応を解析すると、
- 感受性が高く、興奮が長く続く1型細胞
- 感受性が低く、興奮が短い2型細胞、
- そして今回初めて発見された、強い光にしか反応できないが、興奮は強いが短い、3型細胞。
に分かれることを確認している。
また、反応波長についても調べ、反応パターンはそれぞれのタイプで違うが、ピークは470nmに来ることを示している。これは同じメラノプシンを光受容に使っていることから当然の話だろう。
最後に、これらの神経節細胞の反応を、シナプス阻害剤の有無で調べ、桿細胞と錐体細胞からの刺激が、固有の刺激とどう関わるかも調べ、神経節細胞固有の反応が、外部のシグナルで変化させられることを示している。
このように、第三の視覚が人間にもあることがはっきりしたのは面白い。しかし残念ながら、全て細胞レベルの反応測定で、この第三の視覚が何をしているのかはやはりわからない。これまでの研究で、おそらく概日周期を光で調整するときに利用しているのだろうと考えられているが、それぞれの型の神経節細胞の高次の役割はまだまだ解析が必要だ。しかし、動物実験でも統合されたシグナルがどう処理されているのか知るのは簡単ではない。その意味で、以前紹介した神経節細胞を光受容体として利用する治療実験は今後多くのことを教えてくれるような気がする。