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気になる治験研究2:インフルエンザに対するタミフルの効果 ( The Lancet オンライン掲載論文 )

2019年12月30日

タイトルを見て「タミフルがインフルエンザに効くかどうかを今更調べることもないはずだ」と驚かれる人も多いだろう。

調べたわけではないが、おそらくインフルエンザウイルスが検出されると、我が国では患者さんの状態に関わらずタミフルなど、抗インフルエンザ薬が投与されのが普通で、実際テレビメディアでも処方が当たり前のこととして報道されている。

しかし、例えば米国の疾病コントロールセンターのガイドラインで投与を推奨している対象は、1)入院が必要な重症患者、2)2歳未満の幼児、3)65歳以上の高齢者、4)妊婦、5)様々な合併症のある患者、6)免疫抑制中の患者、などに抗インフルエンザ薬投与は限られ、それ以外は様子をみて重症化しそうなら投与とされている。しかし、様子を見ているうちに多くは軽快し、また悪化を予測するのは難しいため、欧米では結局抗インフルエンザ薬を投与しないことの方が多いらしい。

タミフル治験の論文を集めて効果を計算したら、健康人の場合インフルエンザからの回復が17.8時間早くなるという推定があるが、欧米ではこの程度の差なら吐き気などの副作用の方が問題で、わざわざ高い薬を飲む必要がないと判断されるが、我が国では「どの程度の差でも効果がある」ならともかく使おうということになっている。

今日紹介する治験論文は、現在はほとんど抗インフルエンザ薬が処方されない欧米で、タミフルの効果をもう一度確かめようとした研究といえる。個人的には、何を今更という気がするが、タミフルもすでにジェネリックの安価な薬剤も利用できるので、もっと気軽に使ったらどうかという考えが背景にあるのかもしれない。

治験だが、インフルエンザのシーズンに病院を訪問した患者さんを無作為にタミフル投与群と非投与群にわけ、その中でインフルエンザウイルスの感染が確認された患者さんについて、回復までの時間や、逆に症状の悪化による再診や入院などの経過を調べている。

様々な項目について調査が行われており、一般の人にはわかりにくいので要点だけを紹介すると次のようになる。

  • 全患者さんで見たとき、インフルエンザで生活が制限される期間は平均6.5日だが、タミフルを処方した群では平均1.02日は回復が早まる。
  • 高齢者や基礎疾患により悪化のリスクの高い患者さんでは、回復までの日数が2−3日早まる。
  • タミフルでは吐き気や嘔吐を訴える人の数が増える。

以上が結果で、はっきり言ってこれまでの研究とほぼ同じで、タミフルは間違いなく効果がある。特に健康に問題ある患者さんには投与が望ましいという結果だ。結局判断はこの効果の程度が見合うだけのコストパーフォーマンスがあるかどうかの評価の問題になる。

この治験グループは、「使うべきだと強く宣伝はできないが、1日でも早く治りたいのが患者さんなので、幼児や高齢者、さらには悪化するリスクが少しでもある患者さんは当然のこと、健康人が感染した場合も使ってもいいのではないか」と結論している。言い換えると「値段も安くなったことだし、もう少し使ってもいいよ」が結論だ。

インフルエンザと抗インフルエンザ薬の統計を見ると、病気に対する我が国と欧米の間の大きな差を感じるが、一般の皆さんはどう考えられるのか、ぜひ知りたいところだ。

12月30日 アミロイドA タンパク質とTh17(1月9日号 Cell 掲載論文)

2019年12月30日

IL-17というと炎症の親玉サイトカインだと長く思い込んでいたが、腸管ではバリアー機能を高めて、バクテリアの侵入を防ぐ良い働きをするTh17細胞があることが最近明らかにされてきた。すなわちIL-17を分泌するT細胞にも自己免疫病などの炎症に関わる悪いTh17と腸管を守るTh17の2種類が存在することになる。

今日紹介するニューヨーク大学Littman研からの論文は、炎症性腸炎や脳炎をおこす炎症型Th17が誘導される仕組みを探った研究で1月9日号のCellに掲載されている。タイトルは「Serum Amyloid A Proteins Induce Pathogenic Th17 Cells and Promote Inflammatory Disease (血清アミロイドA タンパク質は病原性のTh17細胞を誘導し炎症性の疾患を進行させる)」だ。

これまで腸管で局所的に分泌される血清アミロイド(SAA)はTGFβ依存的な良いTh17誘導を高めることが知られていた。この研究では、SAAをTGFβ非存在下で培養すると、直接T細胞に働き、試験管内でがTh17を誘導できるという発見から始まっている。そして、誘導されてきたTh17は、驚くことにIL23受容体を発現した炎症型のTh17であることを確認する。

この発見がこの研究のハイライトで、あとはSAAが本当に自己免疫性の炎症に関わるかどうか、ヒトやマウスモデルで調べている。

まず炎症性腸疾患で調べると、ヒトでもマウスでもSAAは炎症局所で強く発現が誘導されている。そして、炎症性腸炎を誘導する実験系でしらべたとき、SAAノックアウトマウスでは炎症が誘導できないことを示している。

次に他の自己免疫疾患でもSAAが関わっているのか調べるため、マウスをミエリンタンパク質で免疫して炎症性脳炎を誘導する実験を行なっている。ミエリンタンパク質で免疫すると、肝臓からSAA1/SAA2が強く誘導され、また脳局所でもSAA3が誘導される。様々なノックアウトマウスで脳炎を誘導すると、肝臓由来の血中SAAも脳に発現している局所SAAも両方脳炎に関わることを示している。

そして最後に、試験管内で誘導したミエリン特異的Th17細胞をマウスに移植する実験を行い、肝臓で作られるSAAが炎症型のTh17細胞の誘導を行い、それがSAAが誘導された局所に到達すると、そこで炎症を誘導することを明らかにしている。

実験が複雑で読むのに苦労する論文だが、SAAのシグナルを明らかにすることで、今後新しい免疫性の炎症を制御する可能性を強く示唆する重要な結果で、是非今後の発展を期待したい。

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