過去記事一覧
AASJホームページ > 2019年 > 12月 > 22日

12月22日 ケトンダイエットはアルツハイマー病にも効くのか?(The Journal of Neuroscienceオンライン掲載論文)

2019年12月22日
SNSシェア

アルツハイマー病は、アミロイド沈着によって刺激された神経細胞内でリン酸化Tauタンパク質の蓄積を誘導することで神経変性が進むと考えられている。このため、引き金になるアミロイド沈着やTauのリン酸化など、入り口で進行をとめることが治療の中心として行われている。しかし、抗体治療が一歩前進したとはいえ、この過程が合理的なコストに見合う治療として定着するかは予断を許さない。また、時間もかかるだろう。

この代わりに、根本的な治療でなくとも今すぐ導入して少しでも進行を遅らせる治療法の開発も重要だ。今日紹介する米国・国立衛生研究所からの論文は、アルツハイマー病の後期過程、すなわち神経死がおこる過程をしらべ、それに基づいた治療法の提案を行っている論文で、The Journal of Neurosceiceにオンライン出版されている。タイトルは「SIRT3 Haploinsufficiency Aggravates Loss of GABAergic Interneurons and Neuronal Network Hyperexcitability in an Alzheimer’s Disease Model (SIRT3の片方の染色体での欠損はアルツハイマー病モデルでのGABA 作動性介在ニューロンの変性を高め神経過興奮を誘導する)」だ。

もともとアルツハイマー病(AD)も神経細胞死が起こる段階ではミトコンドリアが重要な役割を演じることが予想されている。そこでこの研究では、ミトコンドリアの機能を支える様々な分子のアセチル基を除去して活性を保つSIRT3に着目し、この遺伝子が片方の染色体だけで欠損するようにしたマウスに、アミロイド蓄積モデルマウスを組み合わせて調べている。

結果は予想通りで、SIRT3の発現が半分になると、ADの進行は急激に高まる。この生理学的な背景に、GABA作動性介在神経の細胞死があり、この結果アミロイドの直接、間接的作用による興奮神経の興奮が抑制されず、過興奮する結果細胞変性が拡大すると言うことを確認している。

これだけならなるほどなのだが、この悪性サイクルを抑える目的で2つの治療法を試している。一つは、GABA作用をジアゼパムで高めることで、興奮神経のか興奮を抑えることができ、興奮神経の過興奮を止めることができる。

ただ、長期間ジアゼパムを飲み続ける問題があるので、つぎにSIRT3の発現を高めることが知られているケトンダイエットをマウスに摂取させる実験を行い、過興奮を抑えるとともに、マウスの死亡率で見ると劇的な効果を得ている。

話は以上で、この研究のハイライトはこれまで可能性が示唆されていたAD治療としてのケトンダイエットの機能的側面を明確にしたことだと思う。もちろん全ての人に効果があるとは思えないが、若年性のADなどやってみる価値のある治療法だと思う。ぜひ臨床医学として効果を確かめてほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031