今年9月初旬ウガンダ旅行に出かけたが、コンゴからウガンダへエボラ感染者が飛び火したことを聞いたかみさんや同行の友人から、大丈夫かと聞かれた。もちろんガイドさんが感染していたという可能性がないわけではないが、医療奉仕団として患者さんに触れない限り、まず感染することはないと答えて、そのまま旅行を敢行した。
ちょうど同じ時期、エボラ感染だけでなく、内戦や政治による危険にも晒されているコンゴで献身的に働くWHOの医療メンバーのことが、9月11日号のNatureに掲載されていた(https://www.nature.com/articles/d41586-019-02673-7)。今日紹介するWHOやコンゴの生物医学研究所をはじめとする国際チームからの論文は、昨年から今年8月までエボラ感染治療に開発された4種類の治療法を比べた研究で12月12日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「A Randomized, Controlled Trial of Ebola Virus Disease Therapeutics (エボラウイルス感染に対する治療の無作為化比較試験)」だ。
エボラ感染についてはすでにモノクローナル抗体を用いたいわゆる血清治療に相当するZMappと呼ばれるヒト化抗体ミックス、あるいはウイルスのRNAポリメラーゼ阻害剤Remdesivirが開発を終えており、さらに2種類のモノクローナル抗体薬、Mab114およびREGN-EB3が開発され、それぞれ第1相試験が終わっていた。
この研究は、これら4種類の治療法の効果を比較することで、無治療という対照群は設定していない。患者さんが発見されると、ウイルスが体内でどのぐらい増殖したかを測定した後、無作為化してこの4種類の薬剤を投与し、最終的には回復したか、あるいは死亡したかを調べている。
これまでの統計によると、エボラ感染の死亡率は50%前後で、これに対しZMappやRemdesvir 投与群ではやはり50%前後と、あまり効果がない。一方、新しい抗体治療Mab114で35.1%、REGN-EB3で33.5%だった。
一時メディアで治癒率9割の新薬としてこの治験の途中経過が紹介されたいたが、おそらくこれは感染初期でまだウイルスレベルが低い段階で治療した群で、それぞれ9.9%、11.2%だった。もちろん放置すれば初期でも半数は死亡することから、著効を示したことがわかる。
他にもデータが示されているが、これで十分だろう。古い言葉で言うと、ウイルスに対する抗血清療法が開発でき、感染初期であればその効果は高いことから、さらに早期発見、および薬剤の常備が進めば治癒率をさらに上昇させることは難しくないだろうと思う。
この研究では、同時にワクチンを受けていた患者さんについても経過を調べているが、現在のワクチンだけでは感染は防げないが、病気の進行を抑えることができるため、これら抗血清の治療効果が高まると結論している。従って、ワクチンも接種を続ける意味はあるように思える。
結果は以上だが、ディスカッションで内戦や政治・経済の混乱でこの治験がいかに大変だったかが書かれており、生々しいレポートだと感激した。