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NatureのNews&Viewsで紹介された論文から選ばれた今年の10選

2019年12月20日
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今年も各紙が今年の研究を総括する時期がやってきた。まず第一弾として、NatureはNews&Viewsとして紹介した論文の中から10報を選んで今年の注目論文としてリストしている。

  • 変異型Huntintinタンパク質を細胞から除去する薬剤の開発(Zoghbi博士の紹介記事Nature 575, 57:本文575,203)AASJでも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11661)中国からの論文で、ポリグルタミンが細胞内に沈殿して神経細胞変性を誘導するのを抑制する薬剤の開発の話だ。本当なら、ハンチントン病だけでなく、CAGリピートで起こる多くの病気に光明がもたらされる。
  • 海王星の新しい月の発見(Verbiscer博士の紹介記事 Nature 566,328:本文Nature 566, 350)  海王星の他の月の軌道の内側に存在する7番目の月で、写真はハッブル望遠鏡で捉えられていたが、今回明確に確認されたということらしい。
  • 常温超電導(Hamlin博士の紹介記事Nature 569:491:本文 569,528) 一時この話題を一般メディアでも盛んに目にしたが、この論文は大きな進歩のようだ。要するに気圧を100万倍にするとLanthanum hydride化合物がなんと−25度程度で超電導を達成するらしい。
  • ビタミンやミネラルの摂取に魚は最適(Pauly博士の紹介Nature 574,41:本文 574,95) 開発途上国でも、漁業が盛んな地域から100Km以内では、魚を食べることで必要なビタミンやミネラルが摂取され、欠損症の確率は低い。すなわち、日常魚を食べることは開発途上国の健康を守る重要な要因だが、多くの国では取った魚を外国に輸出するようになり、この供給システムが破壊されつつある。
  • 完全なゲノム編集法(Platt博士による紹介記事 Nature 576, 48:本文 576, 149)つい最近このブログでも紹介したばかりだ(https://aasj.jp/news/watch/11863 )。目的の場所に切れ目を入れて、挿入したい配列を持った一本鎖RNAを鋳型にして逆転写酵素で読ますことで、正確にホストゲノムを変更する方法の開発だ。言ってみれば、普通の遺伝子クローニングで行うプロセスを細胞内で行うことに対応する。
  • グリーンランドの氷河に閉じ込められていたメタンが放出される(Andrews博士の紹介記事、Nature 565,31:本文565, 73)氷河の下に閉じ込められた生物の沈殿には多くのメタンが含まれている。この量を初めて正確に測ったのがこの論文で、進む温暖化がこの過程を介してさらに悪化する可能性を示唆した。
  • 父親由来のミトコンドリア(McWilliamらの紹介記事Nature 565,296:本文PNAS 115,13039)この論文もこのブログで紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9318)。 「ミトコンドリアは母親の卵子由来」が現在のドグマだが、ミトコンドリア病の多発する家系のメンバーを詳しく調べて、父親からのミトコンドリアが世代を超えて伝えられているケースを発見したことを報告している。まさに次世代シークエンサーによって初めて可能になった研究だ。
  • ロボットを走らせる(Lipson博士による紹介記事 Nature 568, 174: 本文Science Robotics 4, 2aau9354)専門外で全く理由はよくわからないが、足を持つロボットが実際の動物のように歩いたり走ったりすることは簡単ではなかったようだ。この研究では、データを蓄積して学習する新しいアルゴリズムでこれを可能にした。
  • クリック化学(Topczewski博士の紹介文Nature 574,42:本文 574,86)一度の反応で様々な化合物を合成することをクリック化学と名付けたのは野依先生と同じ時にノーベル化学賞を受賞したSharpless博士だが、その典型がCuAAC反応と呼ばれるアジド化合物合成反応だ。この論文では、どんなアミノ酸とも反応して1200種類以上のアジド化合物を作る方法を示している。上海からの論文だが、今は上海の研究所におられるSharpless博士も共著者になっている。
  • フィリピンで発見された新しい人類 (Andrews博士の紹介文Nature 568,31:本文 568,73) 骨のデータだけだったので紹介しそびれた論文だが、フィリピンのルソン島で、これまでの人類とは異なる骨や歯の形をした人類が発見されたという報告だ。この論文は読者の投票で一位に選ばれたので、10番目に掲載している。ただ、明日紹介しようと思っているが、ジャワでは10万年という新しい時代に直立原人が生きていたという発見が最近報告され、この研究も現実味を帯びてきた。

12月20日 他人の意見に耳を傾ける基準(12月16日号 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2019年12月20日
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これまでを振り返ってみると、最後の決断に当たってあまり人の意見を聞くタイプではなかった。そのためか、人の意見を聞きたがる人を見ると、この人は本当に他人の意見を参考にしようと思っているのか?あるいはポーズだけなのか?と疑ってしまう。 自分の意見の基準を形成していく過程で、多くの他人の意見が取り込まれているが、そうした歴史を通じて生まれた基準は余程のことでないと揺るがない。

今日紹介するロンドン大学からの論文は私たちが判断に当たってどのように他人の意見を取り入れているのかを調べた研究でNature Neuroscienceにオンライン出版された。タイトルは「Confirmation bias in the utilization of others’ opinion strength (他人の意見を尊重する程度は自分の確信に関わっている)」だ。

人間を用いた研究で最も重要なのは課題の設計だ。この研究では必ず二人がセットとなって、行動課題を行う時に機能的MRI検査による脳の変化を調べている。このとき、それぞれの参加者にとって、もう一人の判断は他人の意見としてインプットされるようにしている。

もう少し具体的に述べると次のようになる。

  • 同じ不動産物件とその値段を見せて、実際の値段は高いか低いか判断した上で、この判断にお金をかける。この時自信があれば掛け金を増やすと考えられる。
  • 一度判断と掛け金を決めた上で、同じ課題に対する相手の判断と掛け金を聞かせる。そして、最後に相手の意見を知った上で最後にいくらかけるかを決めさせる。

この課題ではっきりしたのは、相手の判断(値段が高いか低いかの判断)が自分と同じ時、相手の掛け金の額は最後の決断に影響するが、異なる判断の場合ほとんど気にしない。具体的には、同じ意見だった場合、相手の賭け金が高いと、より自分の判断の正当性に確信を持って、多くのお金を賭ける。一方、意見が分かれると、相手の賭け金額に応じて最初の判断をほとんど変えることはない。要するに、他人が自分の意見と同じ時だけ、他人の意見を聞く傾向が私たちにはあることがはっきりする。

その上で、ではこの判断に関わる脳の領域を探索し、これまで判断を変化させるときに活動が変化することが知られていた内側前頭前皮質後部(pMPFC)が相手の意見を考慮するときに変化することを突き止める。

すなわち、pMPFCの活動は相手の判断が自分と異なる場合は、賭け金の額に反応しない。ところが、相手の判断が同じ場合は、相手が賭けた額が低いと強く反応し、相手の額が高いと安心するのか反応が低下する。

結果は以上で、判断の調整に関わる脳領域は、相手の意見をなんでも聞くのではなく、あくまでもこれまで脳内に形成した判断基準に基づいて相手の意見がそれと合致したと判断された時だけ、相手の意見を正確に拾って判断の参考にすると言う結果だ。

回りくどくてわかりにくかったかもしれないが、要するに他人の意見を参考にするのは、それが自分意見と同じ時だけと言う結論だ。

言われてみれば納得で、わたしも反対意見の論文はなかなかしっかり読む気にならないことは確かだ。一方、この傾向が社会の2分化を進めることも確かで、今世界各国の政治がそのような状況に陥っている。どう克服できるのか、悩ましい問題だ。

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