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9月1日 Fragile X治療の可能性(9月3日号 Cell 掲載論文)

2020年9月1日

Fragile X はRNA結合タンパク質で翻訳の抑制に関わることが知られているfmrp遺伝子に存在するCGGリピートにより遺伝子がメチル化され発現が抑制されることで起こることがわかっている。Jaenishらはクリスパー技術を用いて脱メチル化することで治療可能であることを示し、根治のための遺伝子編集技術に期待が集まっている(https://aasj.jp/news/watch/8091)。

ただ実現にはまだまだ克服しなければならない壁が多く、fmrp欠損による形質を解析して治療可能な標的を見つけることも重要だ。今日紹介するイェール大学からの論文はfmrpが欠損した神経細胞に見られるミトコンドリア異常を特定し、Fragile Xの新しい治療法を示唆する重要な研究で9月3日号のCellに掲載された。タイトルは「ATP Synthase c-Subunit Leak Causes Aberrant Cellular Metabolism in Fragile X Syndrome(Fragile X症候群ではATP 合成酵素のCサブユニットのリークにより細胞の代謝異常が起こっている)」だ。

この研究で着目したのはFragile Xやfmrpノックアウトマウスで神経細胞のミトコンドリアが小さく形態異常を示すという点で、fmrpによる翻訳異常の結果、ミトコンドリア機能が障害されているのではと研究を進めている。

私も初めて聞くようなミトコンドリアの機能テストを行った結果、ミトコンドリアでATP合成に関わる分子複合体のCユニットの合成が高まり、他のタンパク質とリンクしないチャンネルを形成してプロトンを逃してしまっていることがわかった。データは示されていないが、fmrp による翻訳抑制が働かなくなって、Cユニットの合成が高まってしまったと考えられる。

このミトコンドリアでのプロトンの漏れと、ATP合成の低下は、細胞全体の代謝の再プログラム化を促し、例えば糖代謝に関わる様々な酵素の合成が上昇している。重要なことは、dexpramipexoleによりこの漏れを修復するとこれらの代謝異常が回復する点で、代謝異常が翻訳の異常ではなく、ミトコンドリア機能異常に起因していることがわかる。さらに、Cユニットの発現をノックダウンで低下させると、期待通り様々な酵素の合成が低下し、代謝も元に戻ることを確認している。

最後にイオンチャンネルの漏れを抑えるより強い化合物CsAを用いて、fmrp欠損神経細胞だけでタンパク合成の上昇が抑えられ、ミトコンドリアの形態が正常化することを確認している。

最後にFragile Xモデルマウスを用いて、dexpramipexole投与によりシナプスの形態が正常化し、毛づくろい、巣作り、運動性などに見られた行動異常が正常化することを示している。

実際には、ミトコンドリアの専門家による極めて精緻なプロの研究で、詳細を省いてエッセンスだけを紹介したが、fmrp欠損による翻訳等の異常により最も強く障害された過程を特定し、その過程を正常化することができる、現在他の病気に使われている薬剤を特定した研究とまとめることができる。

これまでFragile Xの研究は何度も紹介してきたが、様々な分野のプロフェッショナルを巻き込んで研究が進んだ結果、治療への糸口がはっきりしてきたように感じる。期待したい。

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