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2月5日 エイズウイルスの強毒株(2月4日号 Science 掲載論文)

2022年2月5日
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オミクロンの遺伝子配列を見たとき、これは異次元の進化だと誰でも思う。ただこのような異次元の変異が実際には免疫不全の患者さんの中でウイルスが長く維持されるときに起こることもわかっている。まだプレプリントレベルだが、SSRNと呼ばれるプレプリント・レポジトリーに最近アップロードされた論文では(https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4014499)、 一人のエイズ患者さんがCovid-19に感染し、9ヶ月もウイルスを保持した結果、20の突然変異が積み重なったウイルスが進化した症例が報告されている。オミクロンについても、同じようなことが起こったのではと考える人が多いようだが、十分納得できる。

このようにCovid-19を助けるウイルスになる可能性があるエイズウイルス(HIV-1)だが、今日紹介するオックスフォード大学からの論文では、強毒性を獲得した新しい変異株がヨーロッパで蔓延し始めていることを報告している。タイトルは「A highly virulent variant of HIV-1 circulating in the Netherlands(毒性の極めて高いHIV-1がオランダで流行している)」だ。

新型コロナと異なり、エイズは一種の慢性病なので、毒性についてはなかなかキャッチしにくい。この研究で発見された新しい変異株の同定は、最初診断時の血中ウイルス量が、一般の患者さんと比べて高い一群があるという発見から始まっている。

そして、これが新しい変異株であることがわかり、ウイルス診断から変異株感染者をスクリーニングすると、オランダの患者さん521人のうち、92人が変異株に感染していることを特定している。

血中ウイルス量が高いという点で強毒株と定義されたが、実際この株に感染するとCD4T細胞数の減少が早く、感染後半減するスピードが2倍以上に速まっている。ただ、治療には反応して、生存曲線では、対照群と違いはない。

残念ながら、変異からなぜこのウイルスの増殖が早く、またCD4T細胞の減少が高まっているのかについては特定できていない。これは、まだ研究が疫学的段階で、実験室の感染実験ができていないためだが、CCR5依存性の感染は明確で、他の配列から見ても、おそらくT細胞への感染率と、細胞内での増殖率、T細胞の細胞死誘導能力が合わさった結果だろうと結論している。

最後に、系統解析が行われ、1998年頃に流行り始めて、2003年ぐらいに流行のピークを迎え、その後はゆっくり流行が抑えられていることを示している。

結果は以上で、エイズにも強毒株の流行があったのかと個人的には驚いた。また、感染症の研究は長期のモニタリングを基礎として初めて新しい材料が発見されることがわかった。最も驚くのは、パンデミックと違ってHIVでは様々なウイルスが共存している点で、強毒株といえども全体を席巻することは難しい。これは、治療法の存在と、再生産数や、病気が慢性であることによるのだろう。

一方で、この強毒株がウイルスにとってどのような有利性をもたらせたのか考えるのも面白い。例えば、1998年というとエイズ治療が普通になった時期だが、この結果ウイルスの増殖は抑えられることになる。とすると、薬剤治療が始まるまでに少しでも早く増殖できるウイルスが選択されるのは十分考えられる。すなわち、薬剤の誕生がこのようなウイルスを進化させた可能性がある。私たちはウイルスともに生きるしかないことがよくわかる一例だ。

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