今回のCovid-19パンデミックで、ワクチンの重要性のみならず、目指すべき要件が整理され、新たな開発競争が始まっている。今回はmRNAワクチンが一人勝ちに見えるが、免疫の質や方向を決める可能性という面では、他のモダリティーも捨てがたい。
特に次々と現れる変異体に対して対応できるワクチンは、ワクチン開発第二ラウンドとして熾烈な競争になっている。一つの方法は投与方法で、スパイクだけでなくいくつかのウイルス抗原を経鼻投与するワクチンで、T細胞免疫を高める方法(例:Cell,2022: https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.02.005)の報告が相次いでいる。
もう一つの方法はタンパク質抗原に組みあわせるアジュバントの開発で、粒子状にしたサポニンベースのワクチンについては昨年紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18463)。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、真菌壁のマンナンの2種類の物性的性状を同時に用いることで、異なる自然免疫を動員し、最終的に広いスペクトラムを有する中和抗体を誘導できることを示した研究で2月17日号のCellに掲載された。タイトルは「An adjuvant strategy enabled by modulation of the physical properties of microbial ligands expands antigen immunogenicity(微生物のリガンドの物理的性質を変化させるアジュバント戦略は抗原の免疫原性を広げる)」だ。
現在使われているアジュバントでも、粒子化することは最も重要な要件で、これにより樹状細胞へ取り込まれる効率が上がる。この研究では、カンジダ菌のマンナンが水溶性のままだと注射部位の炎症を全く起こさないにもかかわらず、リンパ節に速やかに移行して、リンパ節内で自然免疫反応を起こすことに注目した。
この自然免疫メカニズムを調べると、マンナンはNK細胞を中心に、Dectin-2/FcRγを刺激し、下流でNIK、 RelBを刺激することで、インターフェロン依存性遺伝子が誘導され、リンパ節内特異的に自然免疫反応が起こることを明らかにしている。
これは、水溶性のマンナンでの結果だが、これをアラムと混ぜて一部を粒子状にしてアジュバント効果を調べると、今度は、皮膚反応も高いDectin-1を入り口とする異なる刺激経路を活性化することが明らかになった。
実際にはアラムで粒子化しても、残りは水溶性のまま残るので、これに抗原を加えたワクチンは、両方の経路の自然免疫を利用できることが示された。そこで、二つの経路を用いる効果を調べるため、CoV2スパイクタンパク質を混ぜて免役し、現在利用されている他のアジュバントと比べると、誘導できる中和抗体量はどれも同じで有ることが分かった。
しかし、新しいマンナン+アラムワクチンでは、受容体結合ドメインや、ペプチド抗原など、抗体の誘導しにくい抗原に対する抗体を誘導することが出来、その結果ピンポイントの抗原決定基に対する抗体を誘導しCoV2だけで無く、CoV1やMERSの感染まで予防できる抗体を誘導できた。
T細胞免疫を考えると、ワクチンの抗原は当然大きい方がいい。一方、抗体による予防効果を考えると、多くの変異体でも保存されている場所を狙う方が良い。ただ、小さな抗原ではうまく抗体が誘導出来なかった。
この問題を、新しいアジュバントは解決できる可能性を示した。すなわち、抗原決定基をピンポイントで免役して、どのサルベコウイルスにも効果がある広いスペクトラムの抗体を誘導できるワクチンが出来る可能性が示された。さて、第二ラウンドの競争はどうなるか、私たちとしては競争が激しいほどうれしい。