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2月15日 性ホルモンが行動を支配するメカニズム(2月17日号 Cell 掲載論文)

2022年2月15日
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男女の差だけでなく、性ホルモンが様々な行動を支配しているのは、誰もが実感するところだ。思春期、更年期、月経周期、妊娠など、様々な状況で気分や行動が変化する。これは限られたホルモンに対する神経細胞の違い、すなわち神経細胞の遺伝子発現の違いによる、細胞や神経細胞ネットワークレベルの変化に起因するのだが、これほど多様な感情や行動変化が、どの細胞でどの遺伝子により誘導されているのかを調べるのは簡単でない。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、これまでの研究で、オスメスの差や発情周期に関わることが知られている分界条床核、扁桃体、視床前核、そして視床下部副内側部(以後VMH)での、オスメス、あるいは発情周期での遺伝子発現の違いを特定し、特にそれぞれの条件で発現の違いが大きい神経細胞を特定して、それぞれの神経の性行動への関わりを調べた研究で、2月17日号のCellに掲載された。タイトルは「A functional cellular framework for sex and estrous cycle-dependent gene expression and behavior(性と発情サイクルによる遺伝子発現と行動の変化を規定する機能的細胞の枠組み)」だ。

それぞれの領域でのオスメスの遺伝子発現の差、およびメスの発情期での遺伝子発現の差を、リボゾームと結合した現在翻訳中のRNAの発現を調べた後、今度はsingle cell RNAseqを用いて遺伝子発現の差がどの細胞に現れるのか調べている。

ともかく1500近い遺伝子が性や発情期に応じて変化する。今後、これら遺伝子の機能と行動への関わりを機能的に調べることが重要になるが、この論文ではまず手始めとして、発症に強い性バイアスがある自閉症と相関が認められている遺伝子リストと比べ、209種類のASDリスク遺伝子の中の39種類が、性による発現レベルの変化が見られることを示している。ただ、これ以上の解析はされていない。

この研究ではそれぞれの遺伝子の機能について調べるより、これら遺伝子の発現の差が強く反映されている細胞を特定することに集中して、最終的に分界条床核のタキキニン分泌細胞、およびVMHのタキキニン受容体陽性細胞を特定、この神経機能を遺伝子操作を用いて抑える実験を行い調べている。

分界条床核のタキキニン陽性細胞は全てGABA介在ニューロンで、遺伝子発現のオスメスの違いが大きいが、発情期による違いはほとんどない。この神経を遺伝子操作で特異的に抑えると、オスはメスへの指向性を失い、生殖行動や、オス特有の攻撃性が失われる。

VMHのタキキニン受容体陽性細胞は、グルタミン酸作動性興奮ニューロンで、この神経興奮を遺伝子操作で抑えると、発情期の性行動が抑えられ、相手を拒否する確率も高まる。一方、タキキニン陰性細胞の興奮を抑えると、母親としての攻撃性が消失することが明らかになった。

主な結果は以上で、この研究から、メーティングや、子育てに重要な行動が、たった一種類の細胞により支配されることが明確に示された。今回は性別や発情期で大きな遺伝子発現の差がある細胞のみを選んで調べているが、程度はまちまちだが、他にも多くの細胞が特定されている。先は長いが、まだまだ面白い男女のさがわかるのではと期待している。

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