塩野義のMain protease阻害剤が近々承認申請されるらしい。リトナビルと併用する必要があり、他の薬剤との併用の危険性が問題になるファイザーのパクスロビドと比べると、有効性がはっきり示されれば競争力が高い薬剤になると期待される。承認を巡って政治家の影がチラチラ見えるようだが、このような声を無視して、堂々と承認を受けていって欲しい。このパンデミックでは、薬剤承認を巡って政治家がウロチョロしすぎる。
手持ちの薬剤が増えてくると、次に考えられるのが併用でさらに効果を高めるプロトコルの開発が可能になる。現在用いられているRNAアナログ(レムディビルやモルヌピラビル)と併せて、現在リュウマチなどに用いられているピリミジン合成阻害剤を使うことで、それぞれ単独で、ウイルス増殖抑制効果が数倍高まることが報告されている。ピリミジンの細胞内プールが低下することで、モルヌピラビルなどが取り込まれやすくなるためと考えられ、十分納得出来る結果だ。患者さんの多い時こそ、冷静に様々な治験が行えるチャンスだ。
ただ、今日紹介したいのは、ウイルス増殖抑制剤では無く、ウイルスにより誘導される肺炎の進行を抑制する重症化を防ぐ薬だ。最近になって、副腎皮質ホルモン以外にも、炎症やサイトカインストームに対する様々な薬剤の治験が終わり、戦線に投入されている。そのおかげで、covid-19の致死率は大きく改善している。
今日紹介するCold Spring Harbor研究所からの論文は、これまでアルコール依存症から抜け出す目的で使われてきたアルコールでハイドロゲナーゼ阻害剤が、炎症を誘導する白血球の細胞死を阻害し、炎症を抑えるという論文で、2月8日Journal of Clinical Investigation Insightにオンライン掲載されている。
この研究は2020年、ハーバード大学から発表されたアルコールでハイドロゲナーゼ阻害剤のジスルフィラムが、白血球の特殊な細胞死ピロトーシスを誘導するガスデルミンを直説阻害するという論文に始まっている。
以前紹介したように、新型コロナウイルス感染では好中球のピロトーシスが炎症の核になって炎症を促進する可能性が指摘されている(https://aasj.jp/news/watch/14242)。とするとピロトーシスを阻害するジスルフィラムは当然Covid-19に効果があると考えられる。
この一点に絞って実験が行われ、
1)試験管内でジスルフィラムはピロトーシス、そしてそれに続くNETOSISをほぼ完全に阻害する。
2)LPSとMHCに対する抗体を用いた輸血関連急性肺障害モデルで、肺でのNETOSISを完全に抑制して、マウス致死的肺障害をほぼ完全に防ぐことが出来る。
3)ハムスターにCoV2を感染させるモデルで、肺の炎症をかなり抑えることが出来る。
ことを示している。
勿論この薬剤だけで治療するのは難しいと思うが、炎症の引き金段階に関わるので、軽症から中等症への移行時、あるいは重症でも他の薬剤との併用など、治験してみる価値はあると思う。
経済は回せても、ウイルス感染症とは長く付き合うことを思うと、様々な治験を主導するぐらいの積極性がわが国の役所にも生まれて欲しい。