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2月12日 p53の意外な機能(2月11日号 Science 掲載論文)

2022年2月12日
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P53遺伝子欠損は、最もよく知られた発ガンの条件で、多くのガンで欠損が見られ、また遺伝的欠損を持つ家系では様々なガンの発生率が上昇する。これは、p53が多様な遺伝子に働く転写因子として、DNA修復、細胞周期調節、そして細胞死調節と、発ガンに深く関わる細胞活動に関わっているからだが、最近になって老化や細胞競合など、さらに重要な機能に関わることが明らかになっており、研究のしがいがある底が深い分子だ。

今日紹介する英国・ブリストル大学からの論文は、MDCKと呼ばれる細胞生物学で最も使われている細胞株を用いて、p53が上皮細胞層が損傷を受けたとき、上皮層から真っ先に飛び出して、残る上皮を誘導し、上皮層の修復を行うリーダー細胞を誘導する分子であることを示した研究で、読んでみると上皮層の修復が老化と密接に関わることがわかる面白い論文だった。タイトルは「p53 directs leader cell behavior, migration, and clearance during epithelial repair(p53はリーダー細胞の行動、移動、そして上皮修復後の除去に関わる)」で、2月11日号のScienceに掲載された。

上皮が傷害されたとき、辺縁全体が上皮間質転換を起こして対岸に向かって移動すると勘違いしていたが、実際には辺縁に存在する細胞の中からリーダー細胞が自然発生し、これが対岸へ移動しながら上皮修復を主導するらしい。

著者らは、上皮修復をビデオで観察し、リーダー細胞には2核細胞が多いなど、細胞周期の異常が見られることから、p53の発現が上昇しているのではと思いつく。そしてp53の発現を調べてみると、予想通りリーダー細胞ではp53の発現が上昇していることを発見する。この発見が研究の全てで、p53が特定されると後は研究は自動的に進む。

とはいえ、細胞学ならではの自由な実験が行われている。例えばp53の発現がリーダー細胞誘導の十分条件であることを示すために、ラベルしたMDCK細胞にp53を過剰発現させ、それを正常上皮細胞培養に加えると、上皮層の辺縁でしっかりリーダー細胞として働くことを、ビデオを用いて示している。

もちろんクリスパーを用いる遺伝子操作は自由自在だし、分子阻害剤も培養だと使いやすい。それらを組み合わせて培養し、行動を観察できるので、様々な可能性をテストできる。その結果、以下のシナリオが実験的に示されている。

  • 上皮損傷の場合、細胞へのストレスがp38MAPキナーゼを解する経路で、p53を誘導する。
  • p53が誘導されると、細胞周期阻害因子p21が誘導される。
  • p21によりCDKが阻害されることで、細胞周期が止まるとともに、移動やインテグリンの発現など、リーダー細胞へと分化が進む(実際CDK阻害剤でもリーダー細胞が誘導される。
  • ただ、p53はp21を発現させればお役御免ではなく、修復が完成した後、必要がなくなったリーダー細胞を上皮層から除去する、最後のお役目がある。

以上が結果で、リーダー細胞誘導には、まさに私たちが細胞老化として知っているプロセスが全て関わっていることがよくわかる。そこで、リーダー細胞の身になって結論をまとめると次のようになる。

細胞社会にストレスが加わると、老化細胞が出現して、社会が修復される方向に導く。そして社会が修復され役目が終わると、自ら消え去っていく。これは人間社会で高齢者に求められている役割とも重なる。細胞の実験では、p21がそのまま発現し続けると、リーダー細胞が社会の中でのさばって、上皮層を乱すことが示されているが、同じような細胞にならないよう、私たち老人に様々なことを思い起こさせる、少し寂しくなる論文だった。

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