1型糖尿病の患者さん団体は、iPSからインシュリンを作るβ細胞を誘導して、その細胞を移植する技術の開発に大きな期待を抱いている。そのために、寄付集めを行い、我が国の研究者にも助成を行っている。しかし最も重い患者さんからの助成金に込められた期待を、我が国のこの分野の研究者がしっかり受け止めているのか心配になる。というのも、以前書いたように、我が国のこの分野の研究は世界レベルから取り残されているように思う。すなわち、患者さんの思いに応えられないのではと心配する。
今日も、この分野の研究を紹介するつもりだが、世界のレベルを知った上で、是非患者さん団体からの助成金を受けている研究者達は、どう患者さんの期待に応えるのか示して欲しいと思う。
さて、昨年12月に紹介したように、カプセル内に閉じ込めたiPS由来の膵島を移植する第1相の臨床研究が行われ、インシュリン離脱というところまではいかないが、これまでの膵島移植と同じレベルの治療効果が得られるというものだった(https://aasj.jp/news/watch/18452)。
この論文を読んだとき、膵島を直接門脈に注射する方法は、最終的にカプセル法に置き換わるのではと思った。今日紹介する北京大学からの論文は、サルを用いて膵島移植の可能性を探った研究で2月4日号のNature Medicineにオンライン掲載されている。タイトルは「Human pluripotent stem-cell-derived islets ameliorate diabetes in non-human primates(人間の幹細胞由来膵島は、サルの糖尿病を改善する)」だ。
この研究を行っているHongkui Dengは個人的にも知っているが、厳しい競争の中で、あの若手研究者(すでに10年以上経つが)がともかくサルの移植実験まで持ってきたかと、感慨が深い。それだけに、我が国の当時の若手研究者に対する失望は大きい。
研究では、スタンダードになっている方法にいくつかの改良を加え、最終的にβ細胞が60%、α細胞が11%含まれた成熟した膵島の作成に成功している。そして、免疫不全マウスで効果や腫瘍形成の有無などを調べた後、ストレプトゾトシン注射で糖尿病を誘導したアカゲザルに膵島移植を行っている。異種移植になるので、強い免疫移植を続けている。
結果だが、膵島移植後、血糖のコントロールが容易になり、また外部から補うインシュリン量が減少するという、これまでの膵島移植と同じ効果が見られている。
一方、移植細胞から分泌されるCペプチドの量は、1例を除いて徐々に低下している。すなわち移植したβ細胞は失われていく。これも一般的膵島移植と同じで、β細胞は消失していくのに、血糖のコントロールが容易になり、低血糖発作が防がれる。
いずれにせよ、強い免疫抑制を行った上でも、移植細胞に対する免疫反応が起こっていることは、死後解剖での組織検索でも明らかで、異種移植だけで無く、同種移植でも覚悟する必要がある。
以上が結果で、おそらくこのままでは、iPS由来膵島を用いた臨床研究に進むにはハードルが高い気がする。また、カプセルと比べこの方法が絶対的に必要であるという状況はなかなか来ないように思う。今後膵島移植が生き残るためには、自己のiPSを使うか、組織適合性の拒絶反応のないiPSを使った、免疫抑制のない移植が目指されるのだろうが、同じことはカプセルでも行われるだろう。
いずれにせよ、どちらの方法が一般臨床として生き残るのか、いよいよ大詰めにさしかかった気がする。患者さん達にとってはうれしいことだ。