コロナ感染で日本の政府や専門家は熱が出ても自宅で4日待てという戦略をとった。疫学的には正しいかもしれないが、しかし4日間自分の体についてのなんの情報もなくそのまま待つことは大変だったと思う。しかも急速に進展するかもしれないなどと、マスメディアから情報が入ってくる。これを解決する一つの方策として遠隔医療が解禁された。
このようにポストコロナで遠隔医療は加速するが、これは従来の医者と患者の関係がそのまま診療所から自宅へテレビ電話で移行するだけの話ではない。病院に行けない患者さんの不安を取る必要がある。したがって、診断や治療をできるだけ患者さんの側で済ませられる技術が急速に進んで、医師の診断、そして治療への関与すら低下していく可能性が高い。この診断には個人のメディカルレコード、症状、将来自宅で可能になる様々な検査を処理するAIの開発が必須だが、個人ゲノムデータから計算される病気のリスクスコアは役に立つと考えられる。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、個人ゲノムデータサービスによって解析されたデータをリュウマチ性関節炎の治療に使う可能性を調べた研究で5月27日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Using genetics to prioritize diagnoses for rheumatology outpatients with inflammatory arthritis (炎症性の関節炎で受診する患者さんの診断に遺伝情報を使う)」だ。
考えてみると、個人ゲノムサービスは個人に様々な病気のリスクを伝えるだけで終わることが多かった。おそらくこれが我が国では個人ゲノムサービスが発展しない原因だったと思う。しかし、例えばコロナにかかりやすいリスクが計算できれば、サービスを受ける人は急増するだろう。すなわち、個人ゲノムが、診療の入り口で役にたつことが個人ゲノムサービスの進展には必須になる。
この研究では関節炎を起こす5種類の病気に絞って、これまでのゲノム研究に基づくリスクスコアを計算できるG-PROBを開発した。そして、関節痛などで診療を受けた患者さんの診断過程にこのG-PROGが役にたつかを、3種類のコホートを用いて、異なる条件で検証している。ここでは、初診から診断に当たるまで、丹念にレコードを照らし合わせた3番目のセッテイングの結果だけに注目して説明する。
実際の診療に当たっていないので詳しくはないが、確かに関節痛の患者さんの正確な診断に至るのは簡単ではなさそうだ。この研究では、G-PROG スコアを組み合わせることで、少なくとも候補疾患を一つは外すことができ、84%で2つの候補を外すことができることを示している。そして、専門家の最初の診断名の35%は後で変更されていることを考えると、G-PROGと症状を組み合わせた確率計算を用いると、65%が最終診断と一致していることは、G-PROGによりほとんど専門家のレベルの診断が可能になることを示している。また、血液検査のデータを加えると、その正確度を22%高めることができる。
以上、個人ゲノムサービスデータは、臨床医、特に家庭医での診断レベルを高めるのに大きく役にたつという結果だ。
この研究の重要性は、病気のリスクを並列的に示すだけと考えがちな個人ゲノムサービスが、アプリケーションによって、特定の疾患群の鑑別診断に使えることをしめした点だ。このように、一般のお医者さんが個人ゲノムが役立つと実感できれば、このサービスは拡大すること間違い無いと思う。