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6月17日 鼻に乳酸菌(5月25日号 Cell Reports 掲載論文)

2020年6月17日
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細菌叢の研究が進んでから、善玉菌と悪玉菌という概念が定着し、善玉菌を摂取して悪玉菌を駆逐するという理屈で、多くのプロバイオ製品が売られている。中でも発酵に関わる乳酸菌はプロバイオの王様といえる。科学が進む以前からの伝統もあり、病気と一定の相関を示すこともある程度わかってきた。ただ、善玉菌の条件を示すことは簡単ではない。おそらくプロバイオ研究は、今コマーシャルで行われているような話ではなく、食と健康を考える21世紀の大テーマだと思う。

今日紹介するベルギー・アントワープ大学からの論文はちょっと変わった観点から乳酸菌の中のLactobacillusを調べた研究で、5月25日号のCell Reportsに掲載された)。タイトルは「Lactobacilli Have a Niche in the Human Nose (Lactobacillusは人間の鼻腔にニッチを持っている)」だ。

この研究の目的は鼻腔の細菌叢を変化させて慢性鼻炎を軽減するためのプロバイオは可能か調べることだ。ただこの研究では伝統的に善玉菌として扱われてきたLactobacillusに焦点をあて、正常人と鼻炎患者でLactobacillusの存在容態が異なるかを調べている。

まずLactobacillusは少数ながら鼻腔にも存在することがわかる。そして期待通り、鼻炎患者さんではLactobacillusの存在頻度や量が低下していることがわかった。そこで、正常人鼻腔からのLactobacillusを分離培養を試み、大きく4亜種、100菌株の培養に成功している。実際には他の増殖の早い細菌が存在するため、この作業は簡単ではなかったようだ。

これらすべてのゲノムを調べ、それぞれの関係を調べたところ、驚くことに分離された菌株のほとんどは、多様性に乏しく、おそらく食品、特にヨーグルトなどを通して摂取した乳酸菌が鼻腔にも居着いたと考えられる。

しかし鼻から分離されたL caseiとL sakeiは、これまで知られている細菌から大きく変異していることも同時に明らかになった。この理由は、鼻腔という新しい環境に適応したと考えられる。

この研究ではその適応として、鼻腔のように酸素分圧の高い場所で生存するために強化された、カタラーゼなどの活性酸素の毒性を低下させるメカニズムとともに、洗い流されずに鼻腔に粘着する性質についても調べ、鼻腔に適応した菌株では線毛と呼ばれる細菌が細胞に接着するときに必要な構造に関わる遺伝子を発現していることを明らかにしている。

こうして鼻腔に適応したLactobacillusとして培養されたのは、馴染みの深いL caseiになったが、これが典型的な悪玉菌とされている、緑膿菌、ヘモフィリス菌などの増殖を抑制することを確認している。また、病原菌による炎症性サイトカインの分泌をLactobacillusが抑制できることも示している。

最後に、L caseiには抗生物質耐性が存在しないことを確認した上で、実際の鼻腔に投与する人体実験を行っている。鼻に噴霧後、5分、10―16時間、そして2週間目に鼻腔に噴霧したL caseiが存在するか調べると、10時間ぐらいまでは存在すること、また噴霧直後では他の細菌の量が低下することも確認している。

もちろん治療実験までには至っていないが、乳酸菌を鼻に噴霧しても重大な副作用はない。ただ、鼻水、鼻づまりは投与を受けた多くの人に見られたので、今後の課題になる。

以上が結果で、Lactobacillusに最初から決めてはいるが、鼻腔から段階的に善玉菌を取り出し、その臨床応用を目指すという点では、なかなか好感が持てる研究だった。

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